吉沢亮の光を失った瞳に胸を締め付けられる 『青くて痛くて脆い』が突きつける他者との向き合い方
杉咲花が「気持ちわる」と、映画『青くて痛くて脆い』の予告編で言い放つ場面が気にかかっていた。杉咲と共にW主演を務めた吉沢亮が「本気で言われているのかと思ってへこみました」(「全国の学生100人限定!吉沢亮・杉咲花の“となり”で一緒に観る10分間のオンラインプレミア試写会」にて)と語るほど、侮蔑や憐憫に溢れているこの一言がまさか本作のキーワードになるとは。
大学という場所は、得てして2種類の人間に分かれる。新入生の頃から着実に単位を取得しながら文化的活動に励み、早めの段階から就活に向けて動き出す人間と、彼らを“意識高い系”とカテゴライズして嘲笑い、ぼんやりとキャンパスライフを送る人間。
吉沢演じる主人公・田端楓は後者、杉咲扮する秋好寿乃は前者の人間だ。「人に不用意に近づきすぎないこと」「人の意見を否定しないこと」を信条としている楓は、大勢の前で空気の読めない発言を繰り返す秋好を最初は心の底から馬鹿にしていた。けれど、ひたむきになりたい自分になろうと精進する秋好に少しずつ心を開いていく楓。一人ぼっちだったふたりは、やがて互いにかけがえのない存在となり、“世界を変える”という目標を掲げた秘密結社「モアイ」を立ち上げる。キャンパス内の使われていない校舎を起点に、ボランティアやフリースクールなどの慈善活動を行い、理想論だと馬鹿にされながらも大学院生・脇坂(柄本佑)をはじめとした理解者を得ていく姿はまさに青春そのもの。生きるのに不器用で、繊細な心を持つ楓と秋好がどうか幸せになりますように――と願ったのも束の間、事態は急展開を迎える。
物語後半、ある理由で秋好を失った楓は親友の前川(岡山天音)と共に社会人や企業に媚びを売る就活サークルに成り下がった「モアイ」を執拗に追い詰めていく。爽やかなキャンパスライフから一転、BLACK SIDEに堕ちた楓の歪んだ感情が爆発。そこには、NHK連続テレビ小説『なつぞら』や『ママレード・ボーイ』『猫は抱くもの』(ともに2018年)で女性ファンを虜にした“国宝級イケメン”吉沢亮の姿はどこにもない。身勝手な感情で他人を貶めようとする楓の狂気を物語るかのように、吉沢の瞳は少しずつ光を失っていく。
けれど、そこまで楓が「モアイ」に固執する理由が見つからない。本作で最も中立的な役割を担っている前川の後輩・本田(松本穂香)、通称ポンを使って潜入した「モアイ」の活動で分かったのは、学生の個人情報を企業に流しているということだけ。もちろん、個人情報保護の観点でみれば問題のある行動なのだが、その行為を牽引している幹部の天野(清水尋也)に悪気は一切ない。むしろ「良い就職先を学生に紹介したい」という善意からくる行動で、意外にも天野のように真面目なメンバーがいることを楓と前川は知ってしまう。それでもなお、暴走する楓は一体誰を追い詰め、「モアイ」を潰した先に何を手に入れたいのか。それが本作の謎を解く重要な鍵となっている。