『MIU404』些細な出来事も全て最終話へのスイッチに サブタイトル《 》に埋まるものとは
すべてが収束していく、怒涛の伏線回収
“1話完結のノンストップ「機捜」エンターテインメント”と銘打ち始まった『MIU404』。確かに1つひとつの事件に関連性はないが、そこに流れる時間は確かに繋がっている。第1話「激突」で描かれた桔梗(麻生久美子)の記者会見、そして「404 Not fund」のエラーページ。そしてナウチューバー特派員RECによってアップされた「謎の4機捜」動画。1話を観たときには、誰もが問題視しなかったシーンが第10話では炎上の火種になってしまう。
第2話の「切なる願い」で、志摩は「人は信じたいものを信じるんだよ」と叫んだ。それは息子を信じてやれなかった夫婦が、犯人を信じることで救われようとすることへの警告だった。自分に都合のよい真実を信じ込もうとする。認知のバイアスがかかることを。それが第10話では、RECによってネットに投下された警察の陰謀論に食いつく多くの一般人の心情と共鳴する。
第3話で見せたピタゴラ装置のごとく、今いるこの瞬間はすべて人生を変える「分岐点」だ。一つひとつの判断、反応、言動は、とても小さなもの。だが、非常に小さな撹乱が、やがてバタフライエフェクトを引き起こす。何気なくつぶやいた一言が、強く生きてきた桔梗でさえも涙を流さずにはいられないほどに傷つける。良かれと思って拡散した情報が、青池透子(美村里江)や羽野麦(黒川智花)のような強者から追われる「ミリオンダラー・ガール」(第4話)たちを追い詰めることもある。
久住が支持しているドーナツEPの製造工場で働く人々の中には、「夢の島」(第5話)で描かれた厳しい生活を強いられる外国人留学生がいるようにも見えた。なんとか久住を追い詰めたいと、単独で捜査を始めた陣馬(橋本じゅん)に、志摩の元相棒・香坂(村上虹郎)の姿が「リフレイン」(第6話)せずにはいられない。そして、正義を貫くために「清廉潔白でなければならない」と言い聞かせる伊吹と志摩の脳裏には、復讐の炎に身を焦がす前のガマさんの笑顔が浮かんだはずだ。すべてが繋がっている。どんな小さな出来事も、何かしらのスイッチとなりうる。聞こえてきた出前太郎の声が、久住を追い込むきっかけにだってなるように。
私たちは、まだ騙されるのか?
特派員RECに送ったウイルスメールでパソコンを乗っ取り、爆弾テロを仕掛けた久住。ドローン爆弾が次々に爆発するシーンがSNSに流れる。だが、それはすべてフェイクニュースだった。だが、警察も、RECも、拡散した人々も、それを見つめる私たちもすっかり騙されてしまった。爆発は起きなかったが、それを手放しで喜ぶことはできない。久住の本当の狙いは、騒ぎを起こして検問どころではない状況にして、ドーナツEPを運び出すことだった。大掛かりなことをするときには、隠したい本当の狙いがあるものだ。
そして、まんまと引っかかった伊吹と志摩は、やっと手が届きそうなところまで迫った久住を見過ごすことになる。「俺は、自分を正義だと思ってる奴が一番嫌いだ」と言っていた、第1話の志摩を思い出す。他人も自分自身も信じないと言っていた志摩は今、伊吹を「相棒」と呼び、そして久住を追う右か、現場に直行する左かの判断を、伊吹に委ねた。それが、この結果を招いた。この選択が、最終回の分岐点になっていることは間違いない。そして、ずっと気になっていた2019年の時間軸。2020年の私たちは、RECが久住に提案したビデオ会議のプラットフォームが、身近に感じる世界にいる。この1年というズレが意味するものとは。そして、最終話のサブタイトルは《 》。この空白という大胆さ。最後まで、『MIU404』に騙されるような気がしてならない。
■放送情報
金曜ドラマ『MIU404』
TBS系にて、毎週金曜22:00~22:54放送
出演:綾野剛、星野源、岡田健史、橋本じゅん、黒川智花、渡邊圭祐、金井勇太、生瀬勝久、麻生久美子、黒川智花
脚本:野木亜紀子
演出:塚原あゆ子、竹村謙太郎、加藤尚樹
プロデュース:新井順子
音楽:得田真裕
製作:TBSスパークル、TBS
(c)TBS