ゴールデングローブ賞を決める87名の外国人記者協会 老舗組織に突きつけられた独占禁止法違反訴状

 今年2月。韓国映画『パラサイト 半地下の家族』が第92回アカデミー賞で作品賞ほか4部門を受賞し、ハリウッドのガラスの天井が崩れ始めたように見えた。今年6月、アカデミー賞を主催している映画芸術科学アカデミー(Academy of Motion Picture Arts and Sciences、AMPAS)は、819人の新規会員候補に招待状を送付した。候補者は世界68カ国から選ばれており、45%が女性、36%が有色人種、49%がアメリカ人以外だという。ちなみに2019年度は842名で、50%が女性、29%が有色人種, そして国籍は59カ国に渡る。2018年度は928人(構成比未公表)だった。会員数増加の歴史から見ると、AMPASは1990年から2000年にかけて800人近くの会員を増やし急成長した。しかしメンバー数の急増は会員資格が緩和されたからだという内部指摘を受け、2004年には年間増加数を30名までに絞り、新規会員候補の名簿の公開を始めている。現在のメンバー数は約9000名とされている。

 8月3日、ゴールデングローブ賞を主催するハリウッド外国人記者協会(Hollywood Foreign Press Association, HFPA)に対する独占禁止法違反訴状がロサンゼルス連邦裁判所に提出された。ゴールデングローブ賞はアカデミー賞のノミネーション投票中に授賞式が行われ、多くのスターが出席することからも“オスカー前哨戦”と呼ばれ、NBCが全米に生中継している。訴訟を起こしたノルウェー人ジャーナリストは、HFPAを構成する87人のメンバーがその影響力を利用し、映画・テレビ業界における取材機会を独占していると告発した。この訴訟はVarietyなど映画業界誌だけでなく、ロサンゼルス・タイムズ紙やオーストラリアのニュース番組でも取り上げられ注目を集めている。

クリスティ・フラー氏

 訴状によると、ロサンゼルス在住でノルウェーおよびスカンジナビアの国々に向けた報道を行っているクリスティ・フラー氏は、2018年と2019年にHFPAへの入会を申請したものの、彼女と同地域出身のメンバーによって申請を却下された。The Hollywood Reporterの記事によると、申請後のある時点で、ノルウェーとデンマークの市場で現メンバーと競合しないことを求める契約書を提示されたという。「新規メンバーシップの拒絶はジャーナリストとしての業績とは無関係で、むしろ毎年ゴールデングローブ賞を主催することで業界の大きな力を得ている組織による陰謀」と彼女は主張する。また、Variety誌のインタビューでは、「(HFPAに参加することは)ハリウッドで取材活動を行う者にとって自然のなり行きだと思い、申請を繰り返した。ロサンゼルスで活動する多くの外国人記者の中にも同じような経験をした人を知っており、自分自身で立ち上がるしかなかった」と訴訟の経緯を語っている。この訴訟に対しHFPAは、「まだ正式に告訴状を受け取っていないが、和解金の支払いと通常の新規会員選定手順を踏まずに入会を承認せよというフラー氏のHFPAに対する揺さぶりの一環と思われる。フラー氏には、和解金の支払いを拒否し、会員資格は威嚇によって得られるものではないと伝えている。HFPAは組織としての義務と国際ジャーナリズム、慈善活動への献身を真剣に受け止めており、これらの根拠のない主張に対して全力で弁護する」としている。

 1940年代にロサンゼルスを拠点に取材活動を行っていた外国人記者たちが「宗教や人種を差別せずに団結しよう」と結成したHFPAの活動趣旨は、「非営利団体であるHFPAは南カリフォルニアを拠点に活動する国際的な約90名のジャーナリストが会員となり、世界中の様々な出版物を通じて、映画やテレビに関する情報を世界に発信している。HFPAのメンバーは、毎年300以上の取材や試写に参加し、毎年1月に開催されるゴールデングローブ賞の創設と共同制作も行う」とホームページに記述されている。メンバーの年齢や国籍分布は公表されていないが、AMPASと同様にHFPAも終身メンバー制で、新規入会には現メンバー2名による推薦が求められる。

関連記事