『今日から俺は!!』『コンフィデンスマンJP』がヒット ドラマ映画化の強さはまだ健在?
一方、『コンフィデンスマンJP プリンセス編』は、昨年公開された映画『ロマンス編』と同様、古沢良太の脚本を田中亮が監督している。『コンフィデンスマンJP』は信用詐欺師(コンフィデンスマン)たちを主役にした作品で、物語は毎回、ダー子(長澤まさみ)たち詐欺師がターゲットを騙すために、あの手この手を駆使するというもの。
今回のターゲットは、世界有数の大富豪フウ家の当主レイモンド・フウの遺産。ダー子は詐欺師の片棒を担がされていた16歳の少女・コックリ(関水渚)を、レイモンドの隠し子・ミシェルに仕立て上げて、フウ家の遺産をだまし取ろうとする。
『コンフィデンスマンJP』もまた、役者のポテンシャルを見事に引き出したコメディ作品なのだが、福田雄一が、役者たちとの交流で生まれた現場のライブ感を重視するのに対し、古沢良太の脚本が中核にある本作は、物語とキャラクターが細部まで作り込まれており、古沢が構築した難しい役に挑むことで、俳優たちは新たな魅力を引き出されている。
ジョージ・ロイ・ヒル監督の『スティング』を筆頭に、昔から詐欺師が主人公の映画には傑作が多いのだが、それは詐欺師と役者が「演じている存在」という意味において、とても近い存在であるため、役者が役にシンクロしやすいのだろう。その意味で様々な役を演じるダー子たちの振る舞いは、役者自身の演技による俳優論と言えるところがあるのだが、今回の『プリンセス編』は特にその傾向が強い。
ダー子と共に偽物のプリンセスとしてフウ家に潜り込んだコックリは、最初は無学で垢抜けない少女だったが、ダー子と詐欺師としてのミッションに挑む中で、心身ともに美しく成長していく。そんなコックリの変化が、新鋭女優・関水渚の成長物語と重なることが本作の面白さだろう。
その意味でも『プリンセス編』は、宮崎駿監督のアニメ映画『ルパン三世 カリオストロの城』のような立ち位置の作品で、世の中には本物も偽物もなく、演じることで人は何者にでもなれるというメッセージは『コンフィデンスマンJP』が描いてきたテーマの集大成であると同時に、それ自体が優れた俳優論だったと言えるだろう。
映画の舞台はマーレシアのランカウイ島。ゴージャスな建築物や着飾ったセレブたちが集う姿は豪華絢爛で、コロナによって国家間の旅行が難しくなった現状を考えると夢のような物語である。この現実から切り離された夢を描こうという姿勢は、80年代の時代劇に徹した『今日から俺は!!』にも通じるスタンスで、だからこそ、この2作は熱烈な支持を得ているのだろう。コロナに疲れている人は、この2作を観て、せめて映画の中だけでも辛い現実を忘れてほしい。
■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。
■公開情報
『今日から俺は!!劇場版』
全国公開中
出演:賀来賢人、伊藤健太郎、清野菜名、橋本環奈、仲野太賀、矢本悠馬、若月佑美、柳楽優弥、山本舞香、泉澤祐希、栄信、柾木玲弥、シソンヌ(じろう・長谷川忍)、猪塚健太、愛原実花、鈴木伸之、磯村勇斗、ムロツヨシ、瀬奈じゅん、佐藤二朗、吉田鋼太郎
原作:『今日から俺は!!』西森博之(小学館『少年サンデーコミックス』刊)
脚本・監督:福田雄一
配給:東宝
(c)西森博之/小学館 (c)2020「今日から俺は!!劇場版」製作委員会
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/kyoukaraoreha/
『コンフィデンスマンJP プリンセス編』
全国公開中
出演:長澤まさみ、東出昌大、小手伸也、小日向文世、関水渚、古川雄大、白濱亜嵐、柴田恭兵、北大路欣也、竹内結子、三浦春馬、広末涼子、織田梨沙、ビビアン・スー、滝藤賢一、濱田岳、濱田マリ、デヴィ・スカルノ、石黒賢、前田敦子、生瀬勝久、江口洋介
監督:田中亮
脚本:古沢良太
主題歌:Official髭男dism「Laughter」(ポニーキャニオン/ラストラム・ミュージック・エンターテインメント)
配給:東宝
制作プロダクション:FILM
製作:フジテレビ・東宝・FNS27社
(c)2020「コンフィデンスマンJP」製作委員会
公式サイト:http://confidenceman-movie.com
公式Instagram:https://www.instagram.com/confidenceman_jp/
公式Twitter:https://twitter.com/confidencemanJP