宮藤官九郎、坂元裕二、野木亜紀子は今後コロナ禍をどう描く? ドラマ評論家座談会【後編】

【座談会】コロナ禍以降のドラマは?

『いだてん』と『エール』の共通点

『エール』写真提供=NHK

ーー朝ドラ『エール』も異例の休止状態となりました。中盤まで物語は進んでいましたが、どのように評価されていますか?

成馬:『エール』は良くも悪くも演出主導の作品ですよね。裕一(窪田正孝)以外の登場人物の見せ方が弱くて、現時点では、脚本の林宏司さんが途中交代となったことのマイナスの方が目についてしまう。

木俣:林さんが交代してからは、チーフ演出の吉田照幸さんを中心に複数名で脚本が書かれているようですが、やっぱり物語としての弱さを感じざるを得ない部分があります。史実を下敷きにしていることもあり、何を書きたいのかが見えづらいですが、これからやってくる太平洋戦争をどう描くか次第かなと思っています。

成馬:朝ドラは1人の脚本家が全話執筆する脚本主導の作品がほとんどでしたが、『エール』は演出主導のアプローチで、その意味においては画期的な朝ドラだと言えます。脚本に目をつぶれば、新しいことに挑戦している意欲作だと言えるのですが……。

田幸:小品集みたいな感じで魅力的なキャラがいたり、おもしろいエピソードがあったりで、ひとつひとつは面白いんです。でも、それぞれが点と点でまだ繋がっていない。実在した方をモチーフにしている以上、物語としての飛躍が難しいのは分かるので、後半戦に期待しているところです。

木俣:モデルとなった古関裕而さんの楽曲をはじめとした実在の楽曲を使用しているところが良さでもあり、難しさですよね。音楽がすべてオリジナルであれば、どんなキャラクターであってもいいと思うのですが、実際の曲を使う以上、実在の人物たちにキャラクターも寄せる必要はあるわけで。東映アニメーションをモデルとしたと思われる『なつぞら』(NHK総合)もいろいろ意見がありましたが、劇中のアニメはすべてオリジナルにはしていたわけです。だから、主人公のなつ(広瀬すず)がどんな行動をとっても、これはフィクションであり、物語だと言えるギリギリの説得力があった。『エール』では誰もが聴いたことのある楽曲が使用されていて、それ故の強さはあるのですが……。

ーー史実を物語の中に落とし込むという点では、昨年のNHK大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺(ばなし)〜』がひとつの到達点であったように思います。『いだてん』と『エール』の違いはどんなところにあるのでしょうか?

成馬:『いだてん』は演出家が実験的な表現を多数試みていますが、あくまで中心にあるのは宮藤官九郎さんの脚本なんですよね。一方、『エール』は、宮藤さんが脚本を手掛けた『あまちゃん』に吉田さんが参加していたこともあってか、バラエティ的な演出など共通する部分が多いのですが、決定的に違うのは、登場人物の関係性の描き方がギクシャクしているところ。裕一以外のキャラクターが、唐突にあらわれて、好き勝手喋っては、いなくなるということの繰り返しなので、物語もキャラクターもぶつ切りに見えてしまう。コラムでも書きましたが(参考:『エール』の構造は『エヴァ』に似ている? 男性主人公の成長物語を描く朝ドラの試み)、この構成が『新世紀エヴァンゲリオン』の主人公・碇シンジから見た世界のように、ひ弱な裕一が感じている他者に対する不安を反映しているように見えた序盤なら、それでも問題ないと思っていました。ですが、どんどん登場人物が増えて、群像劇になってくると、人物描写の粗さが悪目立ちしてしまう。これが宮藤さんや、岡田惠和さんなら、脇のキャラクターが魅力的に見える群像劇になっていくのですが。繰り返しになりますが、やはり脚本の問題が大きいと思います。

木俣:『あまちゃん』のチーフ演出・井上剛さん、制作統括の訓覇圭さん、そして宮藤さんが揃って参加しているのが『いだてん』で。吉田さんだけ『いだてん』からは外れて『エール』へという形になりましたが、これは朝ドラと大河、両方から戦争とどう向き合うかというのが狙いだったと思うんですよね。

成馬:『エール』の第1話が1964年の東京オリンピックから始まるので、『裏いだてん』として「もうひとつの戦後史」を描くという狙いがあったように感じますね。今年、オリンピックが開催されていれば、まったく違う印象だったのかもしれない。

木俣:『いだてん』と『エール』の共通点として感じているのは、答えを絶対に1つにしないようにしているところ。スポーツや音楽は熱狂を生むだけに、ともすれば一つの方向に皆で向かうように誘導することができるんです。だから感動の物語にしようと思えばいくらでもそうすることはできる。でも、どちらの作品もそうはしないで、「その選択が本当に正しいの?」という問いかけがあるように思うんです。だからこそ、『エール』がこれから戦争をどう描くかというのは非常に興味深いですし、コロナ禍によって全体主義的な動きが起きつつあるいま、その問いかけを描いてくれたら傑作になる可能性もあると思っています。

田幸:『エール』はどうしてもバラバラな印象がありましたが、木俣さんがおっしゃるように、それが一方向に向かわせないためなのだとしたら、この先が楽しみだなと思いました。放送の再開が待ち遠しいですね。

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