宮藤官九郎、坂元裕二、野木亜紀子は今後コロナ禍をどう描く? ドラマ評論家座談会【後編】

【座談会】コロナ禍以降のドラマは?

コロナ禍時代のドラマに求められるもの

――先程、成馬さんもおっしゃっていましたが、今後のドラマはコロナ禍をどう物語に反映させていくかがポイントになるかと思います。次クールのドラマにはどんな要素が求められるでしょうか?

成馬:このままコロナ禍が続くと、外出時にマスクを着けること、居酒屋や劇場でソーシャルディスタンスを取ることが当たり前の日常になってくると思うんですよ。その時に、フィクションの作り手は「コロナ禍を踏まえて変質した現実を描くのか?」「ドラマだと割り切ってコロナのない現実を描くか?」という二択を迫られると思うのですが、僕としては、やっぱりコロナ禍の現実を踏まえた上で新しいドラマを作ってほしい。たとえば、今後の予想を言うと、マスクがある種のファッションアイコンになってくると思うんですよ。イスラム教徒の女性が被るブルカとか、ベリーダンサーが身につけるフェイスベールのような、おしゃれなアイテムに変わっていく可能性もある。それをかつてトレンディドラマがファッション雑誌の役割を果たしたように先駆けて表現すれば面白いのではないか。少し不謹慎かもしれないですが、コロナ禍はネタの宝庫だと思うんです。東日本大震災の時も、テレビドラマはいち早く変質した日常を描いていましたが、“自粛警察”の内実や、医療従事者を筆頭とするエッセンシャルワーカーと呼ばれる方々が直面している現状には、これまでなかった/気づくことができなかった新たな問題が、どんどん浮上しているので、その問題こそドラマ化すればいい。また、優れたドラマは時代を先取りして反映していることが往々にしてあります。昨年アメリカで作られたHBO制作の海外ドラマ『ウォッチメン』は、Black Lives Matterをはじめとした今のアメリカで起きている問題を予言したような作品で、マスクが象徴的に扱われていることも含めて、コロナ禍の今こそ観るべき作品だと思います。『ウォッチメン』はスーパーヒーローが存在した架空のアメリカ史を題材としたドラマですが、ファンタジーやSFを題材とすることでこそ、今のリアルが描けることもある。コロナ禍を作家たちが今後どう描いていくのか、新しい何かが生まれることを期待したいです。

田幸:成馬さんのおっしゃるとおり、ファンタジーは今後のドラマ作りのひとつの鍵かもしれません。昨年、新海誠監督の『天気の子』が大ヒットを果たしましたが、奇しくも未来を予言していたとも言えると思います。現在の私たちは、誰も想像していなかった世の中になってしまったからこそ、ファンタジーやSFがかつてよりも受け入れられると思うんです。

成馬:ファンタジーとは違いますが、『M』や前クールの『テセウスの船』(TBS系)が視聴者に受け入れられている現象も面白いですね。どちらも大映テレビが製作に入っていますが、極端に作り物めいたものにこそ、皆が安心して観ることができる部分もあるのかもしれない。

田幸:『M』は第1話の冒頭が一番おもしろかったですね(笑)。楽しんで観てはいましたが、あとは田中みな実さんの怪演ありきというか、どうしてもコントの作りになっていたので。真剣に作っていた往年の大映ドラマのような強さはないなと。ただ、あの軽さが今のSNS実況鑑賞時代にはマッチしたんだなと思います。

木俣:かつての大映ドラマは、「這いずり回ってでも生きてやる!」といった人間の強さが、離れた状況から眺めると面白いというテイストでしたよね。田幸さんが強さがないとおっしゃったとおり、『M』はふわっとしている。でも、それが現代的なのかなと感じます。コロナ禍によって、若い世代がより「ふわっと」を求めるのか、それとも「地に足がついた」ものを求めるのか。個人的には前者のような気がします。ファンタジーの亜種と言えば、福田雄一さんの『勇者ヨシヒコ』(テレビ東京)があります。元々おもしろいとは思っていたのですが、今の状況だとより気軽に楽しめる感じがありました。もちろん、全部がそうなっても困るんですが、福田さんのコメディは今求められている気がします。

成馬:あまり現実に近いものは、観たくないという人がたくさんいて、その気持ちもよくわかるんですよね。同時に、作り手には最悪の現実にちゃんと向き合ってほしいという気持ちもある。最終的に視聴者がどっちを求めるのか、まだ見えないですよね。

木俣:東日本大震災のときは、私自身もそうだったのですが、本当の意味での“当事者”となった方は限られているわけです。当然、作品の受け止め方にもさまざまな差異があったと思います。でも、今回の新型コロナウイルスは、ほぼほぼすべての人が当事者となっている。当事者として物語を生み出してきた作家さんもいると思いますが、多くの物語は客観的な視点を通して描かれたものです。“他者”になれなかった作家が何を生み出すのか、そしてすべての人が当事者となった状況で、コロナ禍の物語をどう受け止めるのか。その点では、これまで最も描かれてきたラブストーリーは、一番作り難い時代に入りますね。

田幸:『やまとなでしこ』(フジテレビ系)、『愛していると言ってくれ』(TBS系)の再放送が反響を呼んだのも、今の時代ではないラブストーリーだからこそのところはありますよね。コロナ禍以降は生理的な感覚が変化してしまったため、演じる側の距離的な問題もありますが、受け止める方もかつてのようには観ることができない。ラブストーリーは名作の再放送のみで楽しむものになるのか、あるいはコロナ禍時代のラブストーリーが生まれるのか……。

成馬:『東京コロナラブストーリー』とか、作ってほしいですよね。

木俣:ずっとマスクしてるんですか(笑)?

成馬:ちょっと前までは普通だったことが、大きく変わってしまったということも見せる時に、既存の物語を下敷きにするというやり方は、有りなのかなぁと思います。すごくグロテスクなものに見えるかもしれませんが、新しい表現が生まれるかもしれない。

木俣:最初に誰がそれを作るかですよね(笑)。一番最初におもしろく作った人の勝ちというか。誰に作ってほしいですか?

成馬:いずれ、宮藤さんか坂元さんが描くのだろうけど、『MIU404』を書いている野木さんが1番描きやすい立場にいるのかなぁと思います。あとは、安達奈緒子さんが、来年の朝ドラ『おかえりモネ』(NHK総合)で、やるのかもしれない。『おかえりモネ』は天気を題材にしているので、先程話題に出た『天気の子』を連想してしまうのですが、あの作品は実写の作り手の方が、ショックだったと思うんですよね。現実の東京を舞台に、10代の若者のラブストーリーと、貧困や気候変動という現在の社会問題をうまく融合させている。あんな作品をアニメにやられたら、実写にはもう勝ち目はないんじゃないかと思ったし、誰も正面からあの作品に挑もうという作り手はいないと思っていたのですが、まさか朝ドラが安達さんの脚本で『天気の子』と同じテーマに挑戦するとは思わなかった。あくまで個人的な願望ですが、『あまちゃん』が震災を描いたような形で、『おかえりモネ』がコロナ禍を描くのではないかと期待しています。

田幸:主演の清原果耶さんと安達さんは『透明なゆりかご』(NHK総合)のタッグなわけですが、これだけ満を持してと言われる組み合わせもなかなかありません。『アシガール』(NHK総合)のチームが次に朝ドラ『スカーレット』(NHK総合)を手がけたり、NHKさんの仕掛けは上手いなと改めて感じます。単発ドラマや、金曜ドラマ、土曜ドラマで作ったいい流れを、朝ドラや大河に持っていく。これは民放各局ではなかなかできない試みだと思うので、その力を最大限に発揮する『おかえりモネ』がとにかく楽しみです。

前編:『野ブタ』の先駆性、“ベスト再放送”の『アシガール』……コロナ禍を振り返るドラマ評論家座談会【前編】

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