神木隆之介や石田ゆり子、当時14歳の高橋一生も ジブリ作品の意外な声優起用を振り返る

 アニメ映画において、役に魂を吹き込むのが声の役者の存在。ジブリ映画では、いわゆる俳優が多く起用される印象が強く、実写のTVドラマや映画では主役級の俳優が、ちょっとした役でキャスティングされることも多い。誰がどの役で出ていたのか見つけることも、今では楽しみのひとつだろう。たとえば『千と千尋の神隠し』(2001年)では、千尋役の柊瑠美とハク役の入野自由のほかに、千尋から名を奪う湯婆婆と銭婆を夏木マリ、巨大な赤ん坊の坊を神木隆之介、言葉を発しないカオナシ役を舞台俳優の中村彰男が演じていたのは有名な話だ。それ以外にも、湯屋の番台蛙を大泉洋、大根の神であるおしら様を安田顕、さらに豚になってしまうお父さんとお母さんに内藤剛志と沢口靖子が演じていた。

 しかし、ジブリ映画の原点たる『風の谷のナウシカ』(1984年)は、ナウシカを『めぞん一刻』の音無響子役や『アンパンマン』のショクパンマンでも知られる島本須美、ユパを『ルパン三世』の銭形警部で有名な納谷悟朗が務めるなど、洋画吹き替えやTVアニメでも活躍する声優陣がずらりと名を連ね、実写のTVドラマなどで活躍する俳優の名前はほぼ見つけられない。では、今のようなキャスティング傾向に変遷したのはどの作品なのか、ジブリ作品のキャスティングを宮崎駿監督作品に絞って振り返ってみた。

宮崎作品において再キャスティングは“あるある”

 『天空の城ラピュタ』(1986年)は、今や『ワンピース』のモンキー・D・ルフィ役で有名な田中真弓がパズーを演じ、『エヴァンゲリオン』の綾波レイ役でブレイクする以前の林原めぐみの名前も見つけることができる。いくつかの名も無い役を兼ねていて、林原ファンの間では有名な逸話になっている。また『となりのトトロ』(1988年)には、草壁サツキを『タッチ』の浅倉南でもお馴染みの日高のり子が演じるなど、実力派声優陣の名前が並ぶ。その中で異彩を放つのが、お父さんのタツオ役を演じたコピーライター・糸井重里の存在で、このキャスティングは当時も話題になった。『ちびまる子ちゃん』(1990年〜)のまる子役で有名なTARAKOも出演しており、TARAKOは『ナウシカ』『ラピュタ』『トトロ』の3作品に出演している。

 『魔女の宅急便』(1989年)の主人公のキキは、『名探偵コナン』(1996年〜)の江戸川コナン役を25年にわたって演じる高山みなみが務めた。TARAKOと高山にとってジブリ作品への出演が、当たり役を引き当てるきっかけになったと言えるのかもしれない。また、キキを住まわせるパン屋のおソノさんを戸田恵子、その旦那さんを山寺宏一が演じており、山寺は警官やアナウンサー役も兼ね、持ち前の器用さをここでも発揮している。『アンパンマン』(1988年〜)を支えるふたりが、夫婦役だったことも今思うと面白い。

 宮崎監督作品で、いわゆる俳優が多くキャスティングされるようになったのは、『紅の豚』(1992年)からだろう。主人公のポルコ・ロッソを、チャールズ・ブロンソンなどの吹き替えで有名な俳優の森山周一郎が演じたほか、マダム・ジーナをシンガーソングライターの加藤登紀子、ほかに桂三枝(桂文枝)や上條恒彦が起用された。さらに『耳をすませば』(1995年)では、高畑勲監督の『おもいでぽろぽろ』(1991年)で主人公・岡島タエ子の幼少時代を演じて声優デビューした本名陽子が主人公・月島雫役を務め、その相手役・天沢聖司を、当時14歳だった高橋一生が演じている。その2年後に公開された『もののけ姫』(1997年)では、石田ゆり子、田中裕子、小林薫、美輪明宏、森光子といった誰もが知る大物がずらりと名を連ねた。アシタカを演じた松田洋治は、『風の谷のナウシカ』でアスベル役も演じており、同作には同じくナウシカ役だった島本も出演。島本は『となりのトトロ』でもサツキたちのお母さん役を務めて、ジブリ3作品に出演している。前述の本名陽子もしかり、宮崎作品において再起用は、“あるある”だと言える。

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