『バック・トゥ・ザ・フューチャー』が象徴していたハリウッド大作人気 当時の熱狂を振り返る
どのくらい“面白い”かと言うと、この映画の脚本は、多くの映画クリエイターを輩出した、南カリフォルニア大学映画学科のシナリオの授業で“最も完璧な脚本”として教材に使われているそうです。つまり、映画の肝であるストーリーの完成度が高い。様々な映画雑誌で名作100選みたいな企画の時に必ず名があがる作品であり、“話題作・ヒット作”からもう歴史的名作になっているわけです。また『バック・トゥ・ザ・フューチャー』1作目はSF映画でありながら、特殊効果を使ったシーンが実は少ない。1977年(日本公開は1978年)に『スター・ウォーズ』が歴史的な大ヒットになって以来、特殊効果をふんだんに使った作品が人気を博します。これらの作品は今観ても面白いんですが、見せ場の要である特殊効果のシーンはどうしても時代を感じてしまう。ところが『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は特殊効果にあまり頼っていないので、“古さ”に気づかされることがないのです。
加えて『バック・トゥ・ザ・フューチャー』が画期的だったのは、SF映画ファン以外を多く取り込めたこと。1985年は『ターミネーター』1作目が公開された年でもあります。『ターミネーター』も『バック・トゥ・ザ・フューチャー』も、どちらもタイムトラベルもの、両方とも“過去を変えることで未来が変わる”という映画です。しかし、『ターミネーター』はSF映画好きやアクション映画ファンに愛される映画でいわゆるジャンルムービー、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』はより多くの人に受け入れやすいエンターテインメント。SF的設定を使っていますがファミリーコメディ、青春コメディです。ある雑誌が選んだ「高校が舞台の映画ベスト50」の中にも選出されていますから、ハイスクールムービーの名作ともみなされています。『ターミネーター』と『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のどっちがデートムービーに向いているかといったら後者ですよね(笑)(いささか強引な例えですが)。
その一方で、人々の記憶に残っていくためにはキャッチ―なシンボルが必要です。本作で言えば、それがデロリアン型のタイムマシンです。映画やドラマに登場した特殊車両の中でも名車中の名車でしょう。バットマンのバットモービルやナイトライダーのナイト2000、ゴーストバスターズのECT-1などと並ぶぐらいアイコニック。自分の車をデロリアン風にカスタマイズする愛好家も多いと聞きます。この“デロリアン”は、正式にはデロリアン・モーター社という会社が唯一製造・販売したDMC-12のことを指すようです。走った後に炎の軌跡が出るイメージは、車のCMとかにも引用されるぐらい強烈なイメージです。当時の映画雑誌などを読むと、最初の脚本では冷蔵庫がタイムマシンという設定でしたが、万が一子どもがマネしたらというケアからデロリアンに変わったとか。タイムマシンがスピーディな車に変わったことが、この映画自体に勢いとテンポを与えています。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』にはエイリアンやモンスター、ロボットは出てこないけれど、このデロリアンのおかげで商品化もしやすかった。作品以外にグッズという形で人々と長きにわたって接点を持てるというのも、コンテンツの寿命を延ばします。
続編が公開されたのは1作目から4年半後の1989年の暮れ。ちょっとブランクがありますよね。恐らく製作陣はそもそも続編は考えていなかった。いかにも続編がありそうな終わり方をするのですが、大ヒットしたから続編を改めて検討した、というべきでしょうか? 面白いのが、PART3は1990年の夏公開で、PART2からわずか半年後のリリース。しかも2作は同時に撮影。そう『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の続編となるPART2とPART3は、はなから2部作構造になっていました。ここにも製作陣の意志を感じます。つまり『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は安直にシリーズ化させない。ここできっぱり終わりにするぞと。実際、監督のロバート・ゼメキスおよび脚本のボブ・ゲイルは『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のリメイクや新たなる続編は一切考えていないと公言しているみたいですから。