『若草物語』に『ミッドサマー』も 話題作への出演続くフローレンス・ピューの“陰と陽”の魅力

話題作続々出演、フローレンス・ピューの魅力

『ミッドサマー』自律の駆動

『ミッドサマー』(c)2019 A24 FILMS LLC. All Rights Reserved.

 処女作からたったの二作で披露された女優の刻印を、根拠のある才能の刻印だと多くの人に認めさせたのが、大ヒット作『ミッドサマー』(アリ・アスター監督/2019年)である。本作はフローレンス・ピューにとって、ここまでの集大成的な作品となっている。『ミッドサマー』は、冒頭のシーンにダニー(フローレンス・ピュー)の悲痛な叫び声と、極めて印象的な大泣き(「ノー!ノー!ノー!ノー!ノー!」というあの声!)を持ってくることで、この叫びを作品全体に残響として響かせる。カルト教団に吸い寄せられるかのように誘惑され、魅了されていく一人の女性を演じるにあたって、フローレンス・ピューは冒頭の叫びによってカラカラに空洞となってしまったダニーの身体の移ろいを見事に表象している。

『ミッドサマー』(c)2019 A24 FILMS LLC. All Rights Reserved.

 では、ダニーの空洞となった身体は何によって浸食され、何によって満たされたのか? マクベス夫人が誘惑に対して受け身の態度をとっているかのように見えながら、その本質は自発的に構えていたように、ダニーは誘惑に対して隙を露呈させながら、むしろ自発的に、ときに攻撃的なまでに目の前の事態に挑み続ける。ダニーは誘惑に対して引き裂かれた二つの感情を常に両手に抱えながら、光の射す方へ歩んでいく。心身の空洞は光によって浸食され、光によって満たされていく。ダニーにとって自立=自律とは光によって駆動されるものなのだ。その意味において『ミッドサマー』は、フローレンス・ピューのここまでのキャリアそのものを象徴する作品といえるだろう。

ファンタジーとリアリティの境界

『ファイティング・ファミリー』(c)2019 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC., WWE STUDIOS FINANCE CORP. AND FILM4, A DIVISION OF CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION. ALL RIGHTS RESERVED.

 父母兄妹の構成によるプロレスの家族興行を描いた次作『ファイティング・ファミリー』(スティーヴン・マーチャント監督/2019年)で、フローレンス・ピューはゴスなメイク(劇中で「ドラキュラ」と罵られる)に扮して、新たな挑戦を試みている。才能を認められた妹と、認められなかった兄の摩擦や、結局のところモデルのような女の子ばかりが持て囃されてしまう業界で自分を見失ってしまう展開など、極めてシンプルな二項対立と比較の物語構造を持ちながら、いくつもの感情のレイヤーが複雑に張り巡らされた傑作である。

『ファイティング・ファミリー』(c)2019 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC., WWE STUDIOS FINANCE CORP. AND FILM4, A DIVISION OF CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION. ALL RIGHTS RESERVED.

 本作の主人公を演じるにあたって、フローレンス・ピューは「ファンタジーとリアリティの境界にあるもの」と、プロレスについての分析をしている。実際、本作の四角いリング上でのパフォーマンスは、カメラの前で演じることを演じる、という二重の構造を持っている。これは本作の持つダイナミズムの一つとなっている。フローレンス・ピューは虚像がカメラに記録されることのドキュメンタリー性に意識的、図式的に身を曝している。ザ・ロック(ドウェイン・ジョンソン)の「(リングの上では)自分を表現しろ」というアドバイスは、このスポットライトの中で「どうやって(ファンタジーを)演じたらいいのか?」という問いへの孤独なリアリティを浮かび上がらせる。

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