“悪役令嬢もの”はアニメでも一大ジャンルへと成長するか? 『はめふら』に見るTVアニメの変化

 公爵家の一人娘のカタリナ・クラエスはわがまま放題に暮らしていたが、ある日石で頭を強打した衝撃で自分の前世の記憶を思い出す。カタリナがいる世界は、前世でプレイしたゲームFORTUNE・LOVERSの世界であり、このままでは自分は主人公に敵対する悪役令嬢として国外追放などの破滅を迎えてしまう。それを回避するために、日々努力を重ねていくという物語だ。

 今作は女性向けの恋愛ゲームの定型を下敷きにしている。物語の展開であったり、あるいは恋愛対象となる男性陣も王道の王子様タイプ、野性味のある王子様タイプ、義理の弟などであり、また声優も蒼井翔太、鈴木達央などの女性向けゲームのヒーロー像を演じる機会が多い男性たちを起用している。これらの特徴から、本作がゲーム世界であるということをより強調しており、異世界転生系の文脈にある作品であるのは間違いない。

 本作は女性向けゲームの定型を使っており、ノベル化の際には女性向けライトノベルレーベルの一迅社文庫アイリスから発売されている。元々悪役令嬢ものは女性向け作品が多いとされているが、本作は男女の垣根なく多くの人に受け入れられている印象がある。これは前世の記憶を取り戻したカタリナの快活な魅力や、男女問わずに魅了していきハーレムを築き上げながらも、自身は一切そのことに気がつかない朴念仁キャラクターであること、そしてそれにやきもきする多くのキャラクターたちが自分の思いに気がついてもらおうと奮闘する姿がラブコメとして面白く、性別を超えて受け入れられているのだろう。

 それと同時に本作は重要な社会性も込められている。“決められた運命から抗う”といったテーマであったり、あるいは貴族らしい振る舞いを要求されてもそこから外れるカタリナの姿は、現代の物語が描く女性像にも近い。また男女問わずに魅了していく姿からは、ジェンダーフリーの様相も感じられる。これらが意図的か、あるいは無意識かは判断が難しいものの、現代的な物語としてのメッセージ性も獲得しているように感じられた。

 ともすればなろう系というのは、アニメファンからも少し奇異な眼差しを向けられることもある。あまりにも膨大な作品数があるがゆえに、一部の目立つ部分のみがすべてのように思われてしまうケースもあるだろう。しかし、『はめふら』のような作品が注目されることで新たなジャンルが生まれていき、それが大きなムーブメントを呼ぶ可能性もある。ネット文化が生んだ新たなる物語のジャンルということもあり、その動向から目が離せない。

■井中カエル
ブロガー・ライター。映画・アニメを中心に論じるブログ「物語る亀」を運営中。
@monogatarukame

■放送情報
『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…』
MBS、TOKYO MXほかにて毎週土曜深夜に放送中
原作:山口悟(一迅社文庫アイリス/一迅社刊)
キャラクター原案:ひだかなみ
監督:井上圭介
シリーズ構成:清水恵
キャラクターデザイン:大島美和
アニメーション制作 SILVER LINK.
声の出演:内田真礼、蒼井翔太、柿原徹也、鈴木達央、松岡禎丞、岡咲美保、水瀬いのり、早見沙織、増田俊樹、和氣あず未
(c)山口悟・一迅社/はめふら製作委員会

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