『エール』が革新的な朝ドラとなる3つの要素 『いだてん』のアナザーストーリーの一面も
面白いのはこの3つの要素(演出主導、話数短縮、内気な男性主人公)が有機的に絡み合っていること。基本的に朝ドラは、明るく前向きな女性を主人公に、脚本主導で物語が展開されてきた。
そのため会話劇が中心で、物語の起伏もゆったりとしたものだった。これは週6日、半年の放送という長尺に対応する形で生まれた朝ドラの基本形態だ。それゆえスケジュールに余裕がなくなると、家や喫茶店といった密室での会話劇ばかりになってしまうという弱点を抱えていたのだが、『エール』は話数が少なく、会話が苦手な主人公が一人で考え込む場面が多いからこそ、撮影やレイアウトに凝っており、演出の遊びも多い。
もちろん、朝ドラはスケジュールとの戦いであるため、この演出主導の世界観が、後半まで持続できるかはまだわからないが、これを最後までやりきることができれば、朝ドラの新境地となるのではないかと期待している。
福島県出身で「東京オリンピックマーチ」を作曲した古関裕而をヒントに造形された古山裕一を主人公にして、1964年の東京オリンピックをクライマックスに添えた物語である『エール』は、東日本大震災からの復興五輪と言われる2020年の東京オリンピックの年にふさわしい朝ドラとして企画されたのだろう。その意味で、昨年のNHK大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』を観ていた方なら、『いだてん』の“アナザーストーリー”としても楽しめる。
それだけに新型コロナウイルスの世界的流行の影響で、東京オリンピックが延期となってしまったことは大変残念だが、エール(応援)というテーマはまったく色褪せていない。むしろこういう時代だからこそ人々を励ましてくれる朝ドラとなるのではないかと思う。そう感じさせてくれた第1週である。
■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。
■放送情報
連続テレビ小説『エール』
NHK総合にて、3月30日(月)より放送開始
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
出演:窪田正孝、二階堂ふみ、薬師丸ひろ子、菊池桃子、光石研、中村蒼、山崎育三郎、森山直太朗、佐久本宝、松井玲奈、森七菜、柴咲コウ、風間杜夫、唐沢寿明ほか
制作統括:土屋勝裕
プロデューサー:小西千栄子、小林泰子、土居美希
演出:吉田照幸、松園武大ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/yell/