『スカーレット』が描き続けた日常の積み重ね 大切なのは“かけがえのない時間”をどう生きていくか
喜美子の家族のことを考えると、父親も母親も逝ってしまったが、妹ふたりと、八郎との間に生まれた武志は彼女のそばにいる。しかし、その武志は白血病になり、ドナーを探している。そんな中でも、武志は己に残された時間が少なくなりつつもアルバイトをしばらくは続けてきたし、友人たちとの楽しみを共有し、そして真奈(松田るか)という存在もいる。何気ない日常の大切さをかみしめて生きている。
武志の中に残ったものでもっとも大きいのは、自分の表現したい芸術にひたむきに取り組
むという気持ちではないか。それは喜美子と八郎から受け継いだものである。喜美子は穴窯を導入したころは、窯がどんな結果を生み出すかまったくわからない、ある種のモンスターのような存在としてみえていたのではないかと思うが、そんな窯と向き合うことが日常になることで「炎の流れがな、想像できるようになってくる」と語っていた。モンスターのようであった穴窯をすっかり把握していることがわかる。
武志はそんな喜美子の言葉をヒントに、自分の作品の「景色を想像」することができたの
だが、“日常”というものも、武志の中に残ったものでもある。
こうして残ったもの、残らなかったもので考えると、『スカーレット』がどんなことを大切にしているのかが見える気がする。多くの物語(朝ドラを含む)は、家族が離散したり、しないで続いていくこと、その形に重きを置かれることが多い。しかし、『スカーレット』が何よりも丹念に描いてきたのは、そういった形ではなく、ひとりひとりが、そのときをどう生きるか、その点にあるように思う。
■西森路代
ライター。1972年生まれ。大学卒業後、地方テレビ局のOLを経て上京。派遣、編集プロダクション、ラジオディレクターを経てフリーランスライターに。アジアのエンターテイメントと女子、人気について主に執筆。共著に「女子会2.0」がある。また、TBS RADIO 文化系トークラジオ Lifeにも出演している。
■放送情報
NHK連続テレビ小説『スカーレット』
2019年9月30日(月)〜2020年3月28日(土)放送予定(全150回)
出演:戸田恵梨香、富田靖子、大島優子、林遣都、松下洸平、黒島結菜、伊藤健太郎、福田麻由子、マギー、財前直見ほか
脚本:水橋文美江
制作統括:内田ゆき
プロデューサー:長谷知記、葛西勇也
演出:中島由貴、佐藤譲、鈴木航ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/scarlet/