のんがパワーアップしてスクリーンに帰還! 『星屑の町』にみる、6年間の“表現活動”で増した魅力

のん、パワーアップしてスクリーンに帰還

 田舎でくすぶっていた少女が、歌うたびに自信に満ち溢れていく姿は、レトロな衣装も相まって、スター誕生を目の当たりにしたような感動すら覚える。共演したラサール石井は「これはのんちゃんの映画。スターというのはこういう人のことを言う。オードリー・ヘプバーンみたい」と完成披露上映会で大絶賛していたが、まさにスクリーン映えする輝きを放っている。

 ギターの引き語りを吹き替えなしで演じたこともそうだが、役に対しても徹底的に突き詰めていくいい意味の頑固さも、のんの特徴だ。大ヒットを記録したアニメ映画『この世界の片隅に』では、戦時中の女性という、まったく未知の人物を演じるうえで、疑問に思ったことを箇条書きにして片渕須直監督に一つずつぶつけていった。こうして役を深掘りしていくことで、キャラクターの行動や表情に矛盾が生じない。本作で演じた愛も、やや脱線するストーリーラインもあるが、終始感情移入できる人物になっている。

 本稿でも“6年ぶりの実写映画出演”と煽ってみたものの、その間にも、女優活動や、声の演技をはじめ、音楽活動、自身で監督、脚本、主演、演出、編集を含めた作品の製作など、さまざまなな“表現活動”は継続して行っており、映画女優としてのブランクがどう出るかというよりは、こうした経験によって、どんな魅力が増しているのだろうという期待が大きかった。

 そんな期待以上のパフォーマンスを本作では観ることができる。愛は挫折して夢を諦めざるを得ない状況のなか、内から湧き出る思いで活路を切り開き、大きな輝きを得た。のんも、初監督を務めたときのインタビューで「失敗することで前に進める」(参考:クランクイン|監督デビューのん、創作の原動力は「失敗する勇気」)と話していたが、自ら困難だと思うことに積極的にチャレンジし、失敗してしまっても、そのことで得られたものを身にまとい、さらにパワーアップしていくという戦い方が、愛と重なった。

 以前「やりたいと思ったことはブレーキをかけないようにしている」(参考:cinemacafe.net|のん、“リミッター”を意識しても譲れないこだわりとは?)と語っていたのん。自身の感情に純粋に向き合える仕事に全力投球している彼女の清々しさも十分堪能できる作品だ。

■磯部正和
雑誌の編集、スポーツ紙を経て映画ライターに。基本的に洋画が好きだが、仕事の関係で、近年は邦画を中心に鑑賞。本当は音楽が一番好き。不世出のギタリスト、ランディ・ローズとの出会いがこの仕事に就いたきっかけ。

■公開情報
『星屑の町』
公開中
出演:大平サブロー、ラサール石井、小宮孝泰、渡辺哲、でんでん、有薗芳記、のん、菅原大吉、戸田恵子、小日向星一、相築あきこ、柄本明
原作・脚本:水谷龍二
監督:杉山泰一
配給:東映ビデオ
2019年/102分/カラー/シネスコ/5.1ch
(c)2020「星屑の町」フィルムパートナーズ
公式サイト:hoshikuzu-movie.jp

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