『伝説のお母さん』なぜNHK「よるドラ」枠で放送? 企画の背景を制作統括に聞く

『伝説のお母さん』企画の背景に迫る

 『ゾンビが来たから人生見つめ直した件』『腐女子、うっかりゲイに告る。』『だから私は推しました』など、「攻めてる」意欲作を連発してきたNHK土曜の「よるドラ」枠。そんな同枠が今クールで放送しているのが、前田敦子主演の『伝説のお母さん』(NHK総合)だ。

 メインスタッフには『腐女子、うっかりゲイに告る。』制作統括の篠原圭と企画・演出の上田明子(今作ではプロデューサー)、『ゾンビが来たから人生見つめ直した件』制作統括の松川博敬らが集結。同枠の歴代の“冒険者”たちが一堂に会する作品となっている。

 そもそもなぜこの作品を「よるドラ」枠で? 同作の篠原圭に聞いた。

「企画は、もともと演出の村橋直樹君がNHKエンタープライズに出向していた、2019年春頃に提出し、採択されたものです。『よるドラ』はもともと“オーダーメイド感”と“斬新さ”を大事にしていて、テレビを普段観ない層の人たちが『これは自分のことを描いた、自分のドラマだ』という感覚で観てほしい枠なんです。したがって、若者がいま本当に観たいもの、親や恋人に内緒ででも観たいと思えるものを探り、その本音まで掘り下げることを狙いとしています。そんな中、30代~40代と、NHKでは若手と言われる世代の村橋(直樹/演出)くんや上田さんが中心となり、RPGをやっていた世代に向けて、オーダーメイド感覚で作っています」(篠原、以下同)

 作品内には、『ドラゴンクエスト』を連想させる懐かしいドット絵のゲーム画面も登場する。これはゲーム業界に詳しく、ゲームクリエイターの側面もある映像ディレクター・映像作家の大月壮さんが一から手掛けたものだ。

 放送開始当初は、RPGの世界観を取り入れていることから、テレビ東京系の『勇者ヨシヒコ』シリーズと重ね合わせて観る人も少なくなかったが、ドラマの内容は大きく異なる。主人公は、かつて魔王を討伐した「伝説の魔法使い」で、現在は育児中の専業主婦。描かれるテーマは、子育てや結婚、人生設計、家庭などといったパーソナルな問題で、「待機児童」や「ワンオペ育児」などの社会問題である。

「世界観にはRPGの魔王討伐がありますが、その背景には彼らが『伝説の勇者』 とか『伝説の魔法使い』と呼ばれることや、魔王討伐自体に生きがいを感じているということがある。それぞれが生きがいを感じること、自分の居場所を探すところに、視聴者は自分を投影できるのだと思います。また、非現実的な仕事を登場人物に設定していることによって、『仕事にやりがいを感じている人が、それをできず、子育てに追われ、夫が全然協力してくれない』部分をいくらリアルにやっても、重くなりすぎず、どぎつくなりすぎない効果があると思うのです」

 「よるドラ」ではこれまでLGBTや地下アイドルとファンの関係性などを扱ってきたが、本作も時代にフィットしたテーマとなっている。もともと原作ありきだったのか、それともテーマありきだったのだろうか。

「かねもとさんの原作ありきで、なおかつ上田さんが出産したばかりの時期でもあって、子育て世代にリアルに響くということなどが決め手になりました。ただ、僕自身はゲームが全然わからないので、原作を読んだ時点ではイメージできなかったゲーム部分が、実写になったことでようやく理解できたくらいなんです(笑)。今の時代に、子育てや家庭の問題をRPGの世界観で描いた原作を選んだことは、ある種必然。私一人ではわからなかった部分もありましたが、そこは周りのスタッフたちの頑張りによって皆さんにお届けできる形になりました」

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