『伝説のお母さん』なぜNHK「よるドラ」枠で放送? 企画の背景を制作統括に聞く

『伝説のお母さん』企画の背景に迫る

 まずキャスティングでぶつかった問題は、「魔王」をどうするかということ。原作の魔王はダースベーダーのような見た目だが、ドラマでは原作とはほど遠い大地真央が演じている。

「何人かビッグネームが候補として挙がり、なかには原作のイメージにピッタリだった人もいたんですが、はたして原作に近づけるのが良いのだろうか、と。そこで僕が以前、安達奈緒子さん初のNHKドラマ脚本『その男、意識高い系。』でご一緒させていただいた大地真央さんを提案したところ、スタッフ全員一致で賛成が得られました」

 現実にはあり得ないキャラだらけの中、篠原さんが特に絶賛するのは「勇者」役の大東駿介・「伝説の魔法使い」メイの夫「モブ」役の玉置玲央である。

「彼らはすごいですよ。芝居に全く隙がないんです。脚本は演劇界で活躍する玉田真也さん、大池容子さんのお二人に書いていただきました。もし小劇場で『伝説のお母さん』をやるなら玉田さんたちのいつも通りのテイストで良いんですが、本作はドラマですので大きく異なってきます。魔王討伐という壮大な目的や世界観が存在する中で、人間たちがちっちゃいことで悩んでいるので。そういう意味では、壮大なスケール感と、相反するちっちゃさとの両面を一瞬のスキも見せずに演じてくれたのが、大東さんと玉置さんでした。また、主演の前田敦子さんも、子育てのリアルさは実感としてわかるけど、職業としての魔法使いはわからない。その点、前田さんも相当スキなく演じてくれていますね」

 「よるドラ」ではこれまで、小劇場などで活躍する気鋭の脚本家たちが多く活躍してきた。とはいえ、本作はリアルな「育児あるある」が詰まった作品だけに、育児経験のあるベテラン脚本家に……という案はなかったのだろうか。

「実は僕も最初は、実際に子育てを経験している手練れの脚本家を想定していたんです。でも、そういった人が手掛けても、ありきたりな作品になってしまうのではないかと。そこで、企画者の村橋くんが推したのが、原作のかねもとさんの世界観が表現できる、庶民的で、今どきの若者のセリフ・会話が描ける玉田さんでした。玉田さんは若いし、子どももいないけど、子育てでぶつかる問題のリアリティの部分は、本打ち(台本の打ち合わせ)のときに育児中のプロデューサーの上田さんに聞いて進めていました。例えば、『モブが育児できないことをどう表現するか?』『タバコの吸い殻を放置とか』といった具合に、子育てのディテールや、母親の抱える葛藤などのあるある部分は上田さんのアイディアを玉田さんが取り入れ、チームプレイで描いています」

 若さゆえに結婚や子育ての現実が見えておらず、意見が二転三転するクウカイ(前原瑞樹)や、「結婚=子育て」を当然のように押し付ける風潮に抵抗を感じるポコ(片山友希)、仕事はできるが、子育てに葛藤もあるベラ(MEGUMI)など、性別や年齢、立場などによって異なる問題に直面する様は、実にリアルだ。

「ちなみに、勇者・マサムネ(大東)は、いまの社会で言うと、おそらく“デキる男”代表なんですよ。勇者の他に、仕事も持っていて、育児もしっかりやる。でも、デキる男って、テキトーにやっても成果が上がってしまうゆえに、他者の気持ちがわからなかったり、天狗になってしまったりする面もある。だからこそ、勇者がいち早く魔王に取り込まれてしまったりもする。『デキる人、すごい人であることって、そんなに重要なんだっけ?』と、ある種の共感を拒否するようなブラックな問いがあるのは、NHKらしくないかもしれません」

 ドラマを観るうちに、従来の価値観が揺さぶられてくることは多いが、その一つが「魔界」のあり方だ。ダメな国王が治めるメイたちの国よりも、魔王の支配する魔界のほうがはるかに子育て支援や福利厚生が充実していて、良い国に見えてくる。「魔界のほうが良いじゃん」「なんで魔界に行っちゃいけないんだっけ?」と思えてくるのだ。

「実は最後まで魔界のほうが良い世界なんです。でも、侵略はしてくるから、そこはダメなヤツばかりでも、やっぱり許せない。魔王の言うことは正しいし、そっちの世界のほうが優しい世界ではあるけど、でも、こうしたダメな人たちのダメなリアルのほうに愛着が湧く部分が今の日本にはあると思うんです」

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