笑福亭鶴瓶が戦後の総理大臣・吉田茂に SPドラマ『アメリカに負けなかった男』を観て考えたこと

『アメリカに負けなかった男』から考えたこと

 吉田にとっての白洲とはなんだったのか。また、吉田が自分の政治派閥を作るために集めた“吉田学校”の面々、佐藤栄作(安田顕)、池田勇人(佐々木蔵之介)、田中角栄(前野朋哉が怪演!)と白洲の違いはどこにあったのか。それを言い表した吉田の後妻・こりん(松嶋菜々子)のセリフが印象的だ。

 吉田邸では、三女・麻生和子(新木優子)がイヴァンカ・トランプ的ポジションとなってファーストレディの役割を果たし、その長男・太郎は吉田に「おじいちゃん、いつママを帰してくれるの」と聞く。このかわいい太郎くんこそ、今の副総理なのである。また、吉田学校の中心人物であった佐藤栄作は、安部総理大臣の祖父・岸信介の実弟であるので、まるで現政権トップの“ファミリーヒストリー”を見ている思いにもなる。

 75年前の敗戦は国体が維持できるかどうかの瀬戸際だった。GHQ占領下、多くの国民は貧しく、プライドが持てずにいた。その暗い時代に、アメリカと交渉し早期の独立を果たした吉田茂は、たしかに頼れる総理大臣だっただろう。自由民主党総裁となりその後に続いた佐藤栄作、池田勇人らも同じく。そのときの記憶があるがゆえに「戦後の日本を作ったのは自民党だ」と考える人の気持ちはわかった気がする。そして、その思いは今でも、国民の過半数が共有しているのかもしれない。そこにはきっと敗戦直後のどん底状態には二度と落ちたくないという心理が働いていて、つまり、戦後はまだ終わっていないんだなとも考えさせられた。

 若松節朗監督の演出は奇をてらわず、暴力シーンや涙々のエモーショナルな場面も作らず、史実を基に吉田の言動を映し続ける。映画の監督最新作『Fukushima 50』(3月6日公開)でも2011年の福島第一原発の事故をドキュメンタリータッチで描き、吉田所長(渡辺謙)らの取った行動をジャッジせずに映し出した。「経験したことがない原発事故の人間模様を忠実に映像に収めたいと思いました」という映画について語った監督の姿勢は、このドラマでも貫かれているように見えた。

■小田慶子
ライター/編集。「週刊ザテレビジョン」などの編集部を経てフリーランスに。雑誌で日本のドラマ、映画を中心にインタビュー記事などを担当。映画のオフィシャルライターを務めることも。女性の生き方やジェンダーに関する記事も執筆。

■放送情報
テレビ東京開局55周年特別企画
スペシャルドラマ『アメリカに負けなかった男〜バカヤロー総理 吉田茂〜』
テレビ東京系にて、2月24日(月・祝)21:00〜23:24放送
出演:笑福亭鶴瓶、生田斗真、新木優子、矢本悠馬、前野朋哉、安田顕(特別出演)、勝地涼、佐々木蔵之介、松嶋菜々子ほか
原案:麻生和子『父 吉田茂』(新潮文庫刊)
監督:若松節朗
脚本:竹内健造、森下直、守口悠介
音楽:住友紀人
チーフプロデューサー:中川順平(テレビ東京)
プロデューサー:倉地雄大(テレビ東京)、椋樹弘尚(角川大映スタジオ)、佐藤雅彦(角川大映スタジオ)
制作協力:角川大映スタジオ
製作著作:テレビ東京
(c)テレビ東京
公式サイト:https://www.tv-tokyo.co.jp/yoshidashigeru/
公式Twitter:@tvtokyo_drama

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