笑福亭鶴瓶が戦後の総理大臣・吉田茂に SPドラマ『アメリカに負けなかった男』を観て考えたこと

『アメリカに負けなかった男』から考えたこと

「そんなこと言ったってなぁ、戦後の日本を作ったのは自民党だぞ」

 いきなり個人的な思い出話になってしまい恐縮だが、今から20年ほど前、筆者が出版社に勤めていた頃、上司に当たる編集長が、酒の席で時の政権を批判する先輩たちに向かってそう言った。今ではバリバリの右寄りオピニオン雑誌を発行しているその人だが、当然、そのときから自民党びいき。戦中生まれの身としてその子供世代が何を言うかと思ったのだろう。当時、若かった私は、日本史の教科書を思い出し「戦後の自民党って、吉田茂とか佐藤栄作のあたりのことを言っているのかなぁ」とぼんやり考えた。不勉強ゆえ教科書以上の知識はない。リアルタイムの記憶もない。私たちは吉田茂が死んだ1967年以降に生まれた世代である。

 そんな私にとって、2月24日放送のテレビ東京系のスペシャルドラマ『アメリカに負けなかった男~バカヤロー総理 吉田茂~』の内容はとても興味深かった。物語は、笑福亭鶴瓶の演じる吉田茂が対米戦争を回避しようと画策しているところから始まる。そこから敗戦となり焼け野原になった市街地が映し出され、外交官だった吉田は外務大臣、やがて総理大臣に就任。マッカーサーが率いるGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)との交渉役となって、得意のユーモアも交えながらマッカーサーと折衝し、アメリカから食糧支援などを引き出す。

 鶴瓶と言えば、歴史ものでは大河ドラマ『西郷どん』(NHK総合)で岩倉具視を演じたことが記憶に新しい。岩倉役はまず見た目が違う!ということで、大河クラスタにとってはトラウマになったぐらいのキャスティングだったが、本作での吉田茂役はアリかナシかで言ったらアリ。見た目も岩倉役ほどの違和感はなく、丸顔でたれ目、大きな体というのは吉田茂像とリンクする。鶴瓶は関西弁を封印して政治用語を駆使し、長セリフもこなす。さらに、吉田が政治の表舞台に立ったのは現在の鶴瓶と同じ67歳ごろで、年齢の一致が演技にリアリティを付与している。そして終盤、吉田が念願である日本の独立にこぎつけ、サンフランシスコ講和条約の調印に臨むとき、完成した原稿を見て思わず涙を落とす表情には胸を打たれた。

 そもそも鶴瓶本人が政治家向きではないか。TVのレギュラー番組ではさまざまなゲストを迎えて軽妙にトークし、「鶴瓶の家族に乾杯」(NHK総合)と「A-Studio」(TBS系)では、毎週のように全国各地に取材に出かけ、初めて会った市井の人々とも、にこやかに交流している。フットワークが軽く、バイタリティがある。ドラマの収録では、周囲への気遣いを欠かさなかったという。その本質的なところで、政治家役はしっくりくる。

 また、生田斗真は1年前の大河ドラマ『いだてん』(NHK総合)出演時、「鶴瓶の家族に乾杯」にゲストとして登場していた。本作では吉田茂を側近としてサポートした白洲次郎を演じている。24歳上の吉田を「じいさん」と呼び、タメ口で話し、時に叱咤さえする白洲は、イメージどおりの自由人。英語のセリフも多いが、生田はナチュラルに話し、かつ米国に対して屈しない白洲の精神の強さを表現している。

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