『メイドインアビス』はなぜ過酷描写を続けるのか? 根底にある“未知の世界”を探求する楽しさ

 本作がR15の指定を受けた原因は、おそらくキャラクターデザインにあるのではないだろうか。上記にあるように映倫のコメントにも「児童に対する」という文言があるが、本作はキャラクターデザインを3、4頭身ほどと極端に低く設定しており、大人のキャラクターとの身長差は現実とかけ離れているほか、設定上も12歳と幼い少女である。本作は“子どもが主人公”ということが強調されており、大人がメインキャラクターの作品よりも残虐な描写に対するハードルが上がったと考えられる。子供らしい可愛いキャラクターデザインと過酷な冒険のギャップが本作の1つの売りであるが、それがゆえに今回レイティングの変更に至ったとも考えられる。なお、同様のギャップを売りにした『魔法少女まどか☆マギカ』シリーズも過酷な運命に翻弄されている少女を描いているが、直接的な暴力表現がないためか、G指定となっている。

 今回、R15に変更されたことは適切な判断だっただろう。慣れ親しんだアニメファンならば、本作のような作品に理解があり、またシリーズ初見であっても耐えられるレベルのバイオレンス描写に抑えられている印象だ。しかし、イメージビジュアルからは子どもも楽しめる作品のように伝わりかねず、何も知らないファミリーや少年少女が映画館に向かう可能性も考えられる。偶発的な事故を防ぐためにも映倫の指定は妥当なものだろう。 

 この記事からは『メイドインアビス』はバイオレンスな描写が売りの作品なのかと思われそうだが、それは違うと断言しよう。人間が生きることも難しいアビス世界の脅威、手段を問わずアビスに挑む悪役ボンドルドの狂気、大人の悪意に翻弄されながらも前を向くリコたちの矜持、そしてリコとボンドルドに共通するアビスの深淵に対する興味。リコとボンドルドは根っこのところでは同じタイプの人間であるが、歪んだ大人たちの思惑と裏腹に、仲間たちと協力し合いながら前を向く純粋な挑戦が観客の心を掴むのだ。また、本作は映像表現も荒々しいタッチがあるかと思えば、動きのない美麗な1枚絵のイラストを入れることにより、ある種の願いとして強く観客に訴えかけるなどの演出面でも“冒険”をしている作品だ。

 本作を語る際には、目を背けたくなるような残酷な現実や、人間を捕食するクリチャーがいるアビスの大穴の驚異に目を向けてしまいがちだ。しかし、地上で安寧と暮らすような選択を捨て、リコは生きて戻れぬ深いアビスへと潜り込んでいくことを決意する。描写が過酷であればあるほど、その挑戦はより尊く、冒険で未知の世界を探求する楽しさを教えてくれる。残虐な描写というリスクのある挑戦をしっかりと描き切ったからこそ、リコやレグの互いを思いやりながら進む姿がより際立ち、観客の胸をうつ作品となっている。

■井中カエル
ブロガー・ライター。映画・アニメを中心に論じるブログ「物語る亀」を運営中。
@monogatarukame

■公開情報
劇場版『メイドインアビス 深き魂の黎明』
現在公開中
声の出演:富田美憂、伊瀬茉莉也、井澤詩織、森川智之、水瀬いのり
原作:つくしあきひと(竹書房『WEBコミックガンマ』)
監督:小島正幸
脚本:倉田英之
キャラクターデザイン:黄瀬和哉(Production I.G)
アニメーション制作:キネマシトラス
配給:角川ANIMATION
(c)つくしあきひと・竹書房/メイドインアビス「深き魂の黎明」製作委員会

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