深夜ドラマがプライム帯ドラマを超える? 80年代からの傾向と新風の予感
YouTube配信動画に近い“ぼっちドラマ”の潮流
もう一つの大きな流れは、2012年に作られた『孤独のグルメ』(テレビ東京系)からはじまったグルメドラマの勃興だろう。
個人で輸入雑貨商を営む井之頭五郎(松重豊)が仕事の合間に立ち寄った飲食店で食事する姿を淡々と描いた本作は、じわじわと話題となり、定期的に新作が作られるようになった。
本作の影響で主人公が料理を食べながら、モノローグで実況するグルメドラマは多数作られたが、近年ではサウナを題材にした『サ道』や、キャンプを題材にした『ひとりキャンプで食って寝る』(ともにテレビ東京系)といった、グルメドラマの手法を使った新ジャンルのドラマが続々と生まれている。
これらは、趣味の快楽を一人で追求する自己完結型の物語で“ぼっちドラマ”とでも言うような物語となっている。本来ドラマとは“人と人の関わり”を描くものだが、登場人物が一人でほとんど他人と交流しない作品が増えつつあるのは面白い現象である。
もちろん、背景にあるのは低予算ゆえの小規模化だが、一方で出演俳優は一点豪華主義となっており、プライムタイムのドラマで主演を務めていた俳優が深夜ドラマに出演することも、今では当たり前のことになっている。おそらく“ぼっちドラマ”は、バラエティ的な方向性で進化したもので、むしろYouTubeで個人が配信する動画に近づいていると言える。
ドラマだけで完結しない大規模群像劇も
一方、AKB48が総出演した『マジすか学園』(テレビ東京系)やEXILE TRIBEによる総合エンタテインメントプロジェクト『HiGH&LOW』(日本テレビ系)シリーズのような大規模群像劇もある。
これらの作品は、アイドルやダンスユニットといった若手集団をまとめて売り出すための顔見世興行的な側面が強く“ぼっち”ドラマに対する“束(たば)”ドラマといった感じだ。
基本的に若手俳優を売り出すためのキャラクターグッズ的作品だが、そこさえ押さえておけば、あとは何をやってもいいという自由な作りだからこそ『HiGH&LOW』のようなぶっ飛んだ作品も生まれる。ドラマだけで完結せずに、映画やライブといった他メディアとも接続されているのも、大きな特徴だろう。
小規模ゆえの自由度を武器に、独自の進化と多様化が進んできた深夜ドラマ。しかし今後、Netflixで配信される“より作家性が強く予算が豊富な”ドラマや、もっと自由で機動力のあるYouTube等の個人動画が勢いを増していく中で、どのようにして独自性を保つのか?
その意味でも、今期一番の注目作は山下敦弘監督、野木亜紀子脚本の深夜ドラマ『コタキ兄弟と四苦八苦』だろう。民放のプライムタイムで連ドラを書いてきた野木が深夜ドラマを手掛けることでどのような新風を吹き込むのか、今から楽しみである。
■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。
■放送情報
ドラマ24『コタキ兄弟と四苦八苦』
テレビ東京系にて、2020年1月クール 毎週金曜深夜0:12〜放送
※テレビ大阪のみ、翌週月曜0:12〜放送
主演:古舘寛治、滝藤賢一
脚本:野木亜紀子
監督:山下敦弘
音楽:王舟&BIOMAN(スペースシャワーネットワーク)
チーフプロデューサー:阿部真士(テレビ東京)
プロデューサー:濱谷晃一(テレビ東京)、根岸洋之(マッチポイント)、平林勉(AOI Pro.)、伊藤太一(AOI Pro.)
制作:テレビ東京、AOI Pro.
製作著作:「コタキ兄弟と四苦八苦」製作委員会
(c)「コタキ兄弟と四苦八苦」製作委員会
公式サイト:https://www.tv-tokyo.co.jp/kotaki/
公式Twitter:@tx_kotaki