年末企画:藤津亮太の「2019年 年間ベストアニメTOP10」 アニメが「歴史」の対象になり始めた

藤津亮太の「2019年アニメTOP10」

 3つ目は、オリジナル企画らしい挑戦を感じる3作品。『きみと、波にのれたら』は『夜明け告げるルーのうた』の湯浅政明監督の最新作。彼氏を事故で失った大学生が喪の仕事を通じて自己確立していくという縦糸に、彼氏が幽霊となって現れるというゴースト・ストーリーが絡む。この幽霊の見せ方などに湯浅監督らしさが見えて、実写ではなくアニメである必然性が生まれていた。

 『さらざんまい』は、河童と出会ってしまった少年たちが自分の隠された欲望を見つめ直し、次の一歩を踏み出す物語。幾原邦彦監督の様式的な画面づくりが逆に心の柔らかい部分を突いてくる。『星合の空』はSF作品の印象も強い赤根和樹監督が、ソフトテニス部の中学生たちとそれを取り巻く人間関係を丹念に描いている。『さらざんまい』と『星合の空』はオリジナル企画らしいエッジの鋭さで、思春期の心に切り込むところが“アニメらしい”。

 2019年は、注目すべき海外アニメ映画が多数公開された1年だった。その中から『失くした体』(ジェレミー・クラパン監督)を。同作は孤独な青年ナウフェルを主人公に、彼の淡い恋と、左手が覚えている記憶とが交錯する。主題そのものは日本のアニメとも親和性が高いのだが、それがまた違う切り口、テイストで描かれていることが刺激的だ。

 最後に番外を2つ。ひとつは朝の連続テレビ小説『なつぞら』(NHK総合)。アニメ業界の黎明期を題にとった本作の登場は(歴史ものとしてみると切り込みが浅くも感じるが)、もはやアニメが「歴史」の対象になりつつあるということだ。アニメはどうしても「今」のものとして消費されがちで、歴史といっても個人的な体験の枠を超えて語る場は少ない(アニメ系WEBもアニメ誌も基本的にそこに軸足を置いた媒体ではない)。そんな中で『機動戦士ガンダム』を生み出した状況を当事者たちの発言で立体的に構成した『ガンダム誕生秘話 完全保存版』は、「歴史」を語るひとつの実践であったといえる。

■藤津亮太
1968年生まれ。アニメ評論家。著書に『「アニメ評論家」宣言』(扶桑社)、『チャンネルはいつもアニメ』(NTT出版)、『声優語』(一迅社)など。アニメ!アニメ!にて アニメ時評「アニメの門V」を連載中。最新書『ぼくらがアニメを見る理由ーー2010年代アニメ時評』(フィルムアート社)が発売中。Twitter

■公開情報
『ぼくらの7日間戦争』
全国公開中
原作:宗田理『ぼくらの七日間戦争』(角川つばさ文庫・角川文庫/KADOKAWA刊)
監督:村野佑太
脚本:大河内一楼
キャラクター原案:けーしん
キャラクターデザイン:清水洋
制作:亜細亜堂
配給:ギャガ、KADOKAWA
製作:ぼくらの7日間戦争製作委員会
(c)2019 宗田理・KADOKAWA/ぼくらの7日間戦争製作委員会
公式サイト:http://7dayswar.jp/

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