年末企画:小野寺系の「2019年 年間ベスト映画TOP10」 “内省”が重要なテーマに

小野寺系の「2019年映画TOP10」

 『ディリリとパリの時間旅行』を含めて、この時代に、『ゴーストランドの惨劇』、『ある女優の不在』、『ラフィキ:ふたりの夢』、『ブレッドウィナー』、『幸福路のチー』などなど、社会における女性の現状を告発する作品が増えているのも必然。『ホットギミック ガールミーツボーイ』は、キラキラ映画として存在しながら、それ自体に潜む暴力を暴き出すという、最も野心的な一作です。

 『ホットギミック ガールミーツボーイ』の山戸結希監督は、このようなテーマ性にくわえ、新たな映画文法を独自に確立するという革新性によって、私の知る限りでは、現在の日本で唯一、“ワールドクラス”と呼ぶことのできる映画作家になったと感じます。この新しさに、いまだ対応できていない日本の批評家の足取りの重さに憤りを覚えます。

 社会への抵抗を最もアツく表現した『ピータールー マンチェスターの悲劇』をはじめ、『読まれなかった小説』、『家族を想うとき』、『希望の灯り』、『幸福なラザロ』、『荒野にて』など、市民の窮状をうったえ、戦う意志を示す作品は、この時代だからこそ、より熱がこもった表現を獲得していると思います。

 一方、時代感覚とはかけ離れたところで輝いたのは、フルーツ・チャン監督の『三人の夫』や、クエンティン・タランティーノ監督の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』。これらは明らかに異質で、倫理を超えた凶暴な“でたらめさ”が、圧倒的な表現に結びついています。『ディリリとパリの時間旅行』の内容に象徴される、作家同士のゆるい連帯感覚も素晴らしいですが、このような作家主義やパーソナルな表現が、いまだ健在なのも事実。だがそれは、一種のコードを意図的に無視しているだけで、ことさら倫理に敵対するものになっているわけではない、ということを付け加えておきます。

TOP10で取り上げた作品のレビュー

『ホットギミック ガールミーツボーイ』徹底解説! 山戸結希監督が確立させた“新しい映画表現”

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■リリース情報
『ディリリとパリの時間旅行』
2020年1月22日(水)Blu-ray&DVD発売
Blu-ray:4,700円+税
DVD:3,800円+税
監督:ミッシェル・オスロ
音楽:ガブリエル・ヤレド
声の出演:プリュネル・シャルル=アンブロン、エンゾ・ラツィト、ナタリー・デセイ
販売元:ウォルト・ディズニー・ジャパン
2018年/フランス・ベルギー・ドイツ/フランス語/94分/ヴィスタサイズ/カラー/5.1ch/日本語字幕:手束紀子
(c)2018 NORD-OUEST FILMS - STUDIO O - ARTE FRANCE CINEMA - MARS FILMS - WILD BUNCH - MAC GUFF LIGNE - ARTEMIS PRODUCTIONS - SENATOR FILM PRODUKTION
公式サイト:child-film.com/dilili

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