桜井ユキは稀代の“染まり”女優? 『G線上のあなたと私』『マチネの終わりに 』で見せる芯の強さと迷い
単に強いだけでなく、弱さの先に強さがあり、もしくは弱いのを隠しながら強くあろうとする。それは現代人がこの社会を生きていくために必要なワザでもあるから、桜井ユキが体現するその“人間らしい所作”には無条件に心を惹かれてしまう。芯を強く持っていてもずっと強くなんていられないからだ。桜井ユキがさらに巧いのは、ブレない軸を持ちながらも時おり、内面に潜む弱さが“迷いの表情”として立ち現れるところではないだろうか。
実は、映画『マチネの終わりに』には、『G線上のあなたと私』の先に挙げた侑人と眞於が再会するシーンと非常に似た、しかし桜井ユキ(三谷早苗)が置かれる立場としてはほとんど真逆の場面が存在している。石田ゆり子演じる洋子とニューヨークで再会し、4年前に起きた(起こした)出来事の真実を打ち明けるシーンである。ここでは時が止まっているのは洋子の方で、「それで、あなたは幸せなの?」と問われた早苗は、「はい。すごく幸せです」と噛み締めるように答える。
その“4年前の出来事”の衝撃さたるや、まるでホラー映画と見紛うほどのものだったが、ここでも早苗はその行動の理由を強く持っていた。「私の人生の目的は蒔野なんです」、蒔野が音楽と向き合うためには、洋子の存在は邪魔であると。しかし、いくらブレない信念があるとは言っても、彼女の行動は明らかにアンモラルで非情なものだ。それでも彼女に微かな人間らしさが宿るのは、その行動に“迷い”が垣間見えるからだろう。病院の待合で携帯の着信を聞きながら押し殺す感情、新しい携帯を蒔野に手渡す際に思わず泣きそうになる姿。
非道な行為に及びながらも、どこかで「本当のことを告白してくれるのではないか」と観るものに思わせてしまうところが、三谷早苗という女性の複雑な魅力であったように思う。最終的に彼女は罪を告白し、それでもこの4年間は幸せだった、と言ってみせる。これほど心情が揺れながら、しかし芯の強いキャラクターを演じきった女優がかつていただろうか。
少しニッチな視点だが、桜井ユキと言えばいろんな作品で、顔がライトによって照らされある色に染まっていく、そんなシーンも印象的。例えば『だから私は推しました』第3話では、同僚の友だちにアイドルオタクであることを告白しながら、徐々に彼女の顔が黄色く染まっていく。イエローのライトに照らされているのだろうと思われる場面だが、この色は愛が推すアイドルグループ「サニーサイドアップ」のコンセプトカラーでもあるから、彼女の心情にマッチするものになっているだろう。先述した『マチネの終わりに』の病院のシーンでは「危険」「停止」を思わせるような赤いライトに照らされ、昨年末公開の映画『真っ赤な星』でも主人公・陽(小松未来)と弥生(桜井ユキ)が再会するショッキングな場面において、車のバックライトである“赤”に染まる。いずれも重要なシーンで、彼女は“そのシーンの色”に完璧に染まってみせる。
桜井ユキは、ある色に染まったときに絶妙に映えるくっきりした顔立ちであると同時に、久住眞於と三谷早苗のように真逆の立場であれ「どんな役にでも染まることができる」稀有な女優だ。そんな稀代の“染まり”女優が、今後どんな役に染まり、私たちの心を引き付けてくれるのか。桜井ユキと、彼女が演じる人間らしいキャラクターから今後も目が離せない。
■原航平
編集/ライター。1995年生まれ。映画、ドラマ、演劇などのカルチャーをむさ
ぼり食らう日々。Twitter/ブログ
■放送情報
火曜ドラマ『G線上のあなたと私』
TBS系にて、毎週火曜22:00~22:57放送
出演:波瑠、中川大志、松下由樹、桜井ユキ、鈴木伸之、滝沢カレンほか
原作:いくえみ綾『G線上のあなたと私』コミックス全4巻(集英社マーガレットコミックス刊)
脚本:安達奈緒子
演出:金子文紀、竹村謙太郎、福田亮介
チーフプロデューサー:磯山晶
プロデューサー:佐藤敦司
製作:TBSスパークル、TBS
(c)TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/gsenjou/
■公開情報
『マチネの終わりに』
全国東宝系にて公開中
出演:福山雅治、石田ゆり子、伊勢谷友介、桜井ユキ、木南晴夏、風吹ジュン、板谷由夏、古谷一行
監督:西谷弘
原作:平野啓一郎『マチネの終わりに』
脚本:井上由美子
音楽:菅野祐悟
製作:フジテレビジョン、アミューズ、東宝、コルク
制作プロダクション:角川大映スタジオ
配給:東宝
(c)2019 フジテレビジョン アミューズ 東宝 コルク
公式サイト:matinee-movie.jp
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