『なつぞら』が描き続けた“命を与える”営み 改めて胸に刻みたい、泰樹がなつへ授けた言葉

『なつぞら』が描き続けた“命を与える”営み 

 そんなときなつの周りでは、しばしば手を差し伸べてくれる人々がいた。産後も東洋動画で正社員として働けるように力を貸してくれたのは、仲さん(井浦新)や神っち(染谷将太)だった。あるいは、優を預ける場所が見つからなかったときに、面倒を見てくれたのは茜さん(渡辺麻友)だった。「東京を耕してこい」と泰樹から励まされて上京したなつ。ただ、「耕す」ことはいつも自分だけでできるとは限らない。それはときに誰かの力を借りなければいけないときもある――ちょうど、子どもの頃、天陽の家の畑で農業ができるように、皆で切り株を引き抜いたときのように。

「人は人を当てにする者を助けたりはせん。逆に自分の力を信じて働いていれば、きっと誰かが助けてくれるもんじゃ」

 これは、まだ幼かったなつが雪月でアイスクリームを食べるシーンで、泰樹から掛けられた言葉である。なつは決して「人を当てに」すればいいなんて考えてこなかったし、それは幼い頃からずっとそうである。まずは自分ごととして困難を引き受けて、その上で何ができるかと必死に考えて、できることは可能な限り自分の力でこなしてきた。それでもどうにもならないときには、なつは感謝して周りの力を借りてきた。困っているとき、辛いときには、きっと自分の頑張りや辛さを知っている人がいる。それは当たり前のことのようであるが、実は現代の私たちが今最も知っていなくてはならないことかもしれない。開拓者たる者、力強く、勇ましくというのは、アメリカ人的なフロンティア・スピリットであるが、常に一人で力強くなんて、どだい無理な話である。

 そして、本作ではヒロインのなつのドラマだけではなく、役者を目指した後、父親の背中を追っていった雪次郎の物語、なつと同じく子どもを授かって、料理人として腕を磨いてきた千遥の物語、北の大地で農業をする傍ら、絵を描き続けた天陽の物語など、それぞれの舞台で大地を切り開くドラマが描かれてきた。作中で色濃く描かれたものもあれば、視聴者の想像に委ねられたものもあった。いずれにせよ、『なつぞら』は様々な「開拓」の在り方を鮮やかに映し出した朝ドラであった。人は皆、開拓者。そのことを教えてくれた朝ドラに感謝したい。

(文=國重駿平)

■放送情報
『なつぞら 総集編 前編・後編』
[総合]10月14日(月・祝)【前編】午後3:00〜午後4:28【後編】午後4:28〜午後5:56
[BSプレミアム]10月27日(日)【前編】午後1:30〜午後2:58【後編】午後3:00〜午後4:28
作:大森寿美男
語り:内村光良
出演:広瀬すず、松嶋菜々子、藤木直人/岡田将生、吉沢亮/安田顕、音尾琢真/小林綾子、高畑淳子、草刈正雄ほか
制作統括:磯智明、福岡利武
演出:木村隆文、田中正、渡辺哲也ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/natsuzora/

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