『ボーダー 二つの世界』と『ジョーカー』の共通項とは アウトサイダーを描く作品が映し出す現実

『ボーダー』アウトサイダーの生を描く

 アーサー自身は「政治的な」存在ではないし、もしかすると『ジョーカー』も直接的には「政治的な」映画とは言えないかもしれない。具体的にどうするべきかというプラクティカルなメッセージはなく、いま、この世界で起こっていること、またはその空気を風刺することに留まっている。しかしだからこそ、メタファーこそが現実世界を鋭くえぐることの好例……いや、もっともヘヴィな部類の例だと言える。

 一方、『ボーダー 二つの世界』はもっと曖昧な領域に踏み入ろうとしている。それは、リンドクヴィストがつねに持つアウトサイダーへの慈愛にも似たまなざしによるものではないだろうか……。アウトサイダーたちはいつの時代も生きるのが難しく、しかし、この映画はそうした社会から見棄てられた人びとの実存を諦めることはないのである。

 現在、社会の「下層」ないしはアウトサイダーの怒りや疎外感や苦境をモチーフとした作品群が注目され、多くの支持を得ていることは、それらがわたしたちが生きる世界のリアルを映しているからに他ならない。暴動が起きようとしている……その危機感は、現代を生きるわたしたちの内部で膨れ上がり、限界を迎える寸前である。だからいまわたしたちは、この世界を巣食う不平等を捉えた映画から目を逸らせない。

■木津毅(きづ・つよし)
ライター/編集者。1984年大阪生まれ。2011年ele-kingにてデビュー。以来、各メディアにて映画、音楽、ゲイ・カルチャーを中心にジャンルをまたいで執筆。編書に田亀源五郎『ゲイ・カルチャーの未来へ』。

■公開情報
『ボーダー 二つの世界』
10月11日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて公開
監督・脚本:アリ・アッバシ
原作・脚本:ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィスト
配給:キノフィルムズ
2018年/スウェーデン・デンマーク/スウェーデン語/110分/シネスコ/DCP/カラー/5.1ch/原題:Grans/英題:Border/字幕翻訳:加藤リツ子/字幕監修:小林紗季/R18+
(c)Meta_Spark&Karnfilm_AB_2018
公式サイト:border-movie.jp
公式Twitter:@border_movie_JP

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