『HiGH&LOW THE WORST』評論家座談会【前編】「川村壱馬くんは『高橋ヒロシ漫画』感がすごい」

 『HiGH&LOW』シリーズのスピンオフ映画『HiGH&LOW THE WORST』が、いよいよ10月4日に公開される。男たちの友情と熱き闘いをメディアミックスで描く『HiGH&LOW』シリーズと、不良漫画の金字塔『クローズ』『WORST』がクロスオーバーした同作は、川村壱馬をはじめとしたTHE RAMPAGE from EXILE TRIBEのメンバーらが出演することでも注目を集め、映画に先がけて放送されたテレビドラマ『HiGH&LOW THE WORST EPISODE.0』(日本テレビ系)も大いに話題となった。

 『HiGH&LOW』シリーズの最新作と聞いて黙ってはいられないのは、ドラマ評論家の成馬零一氏、女性ファンの心理に詳しいライターの西森路代氏、アクション映画に対する造詣の深い加藤よしき氏の三名だ。これまで『HiGH&LOW』シリーズの新作が公開されるたびに口角泡を飛ばす激論を繰り広げてきた彼らは、『HiGH&LOW THE WORST』にどんな願望を抱いているのかーー自他ともに認める“HiGH&LOWバカ”たちの座談会の模様を、余すことなくお届けする。(編集部)

成馬「密度を濃く圧縮するほうに向かっている」

加藤よしき(以下、加藤):僕は正直、今作の企画が発表されてからドラマを観るまで、不安半分、期待半分でした。『クローズ』をはじめ、高橋ヒロシ先生が描いているジャンルは大別するとヤンキー漫画といわれるもので、「HiGH&LOW」もヤンキー漫画的な側面は強いですが、両者は似て非なるものだと思います。刑事ドラマでいうと、『相棒』と『西部警察』みたいな感じですね。まったく混ざらない可能性もあるし、うまくハマればお互い高めあえる。「HiGH&LOW」がまた0か100かのことを仕掛けてきたな、と思っていました。

成馬零一(以下、成馬):物語自体は『HiGH&LOW THE MOVIE/FINAL MISSION』(以下、『FM』)で、やること全部やりきったと思っていたので、この先どうなるのかというのは、想像できなかったです。その後、映画『DTC 湯けむり純情篇 from HiGH&LOW』(以下、『DTC』)があったので、こういうスピンオフを小出しにしたり、あるいは『PRINCE OF LEGEND』のような違うシリーズを動かして、しばらくは本編はやらないのかなぁと思っていました。『HiGH&LOW THE WORST』(以下、『THE WORST』)もスピンオフという位置づけですよね。

西森路代(以下、西森):以前に、平沼(紀久)さんが「鬼邪高のスピンオフをつくる」と定時の3人と約束していたんですよね。ただ今作はドラマが1シーズンあって映画があるという、かなり時間をかけて描く作品になるわけで。これまでの本編くらいしっかりした世界観をまたつくろうとしているんだなと感じます。山王街にそれぞれの人間ドラマがあったように、どこの街にもそういうドラマがあるんだ、という世界を示しているんだなと思いました。

加藤:たしかに、ここからさらにいろんな意味で「HiGH&LOW」の世界を広げていこうという意図をすごく感じますね。ドラマ第3話で『HiGH&LOW THE MOVIE/END OF SKY』(以下、『EOS』)の冒頭が流れたときは我が目を疑いました。「初めて観る人をここから「HiGH&LOW」の世界に入れようとしている」と。「HiGH&LOW」を知らない人が『THE WORST』を観ると「これは一体なんなんだ」となると思うんですよ。『クローズ』っぽいものをやっていると思って観ていると、ところどころで『HiGH&LOW THE MOVIE』のコンテナ街のシーンが入ったり、『EOS』のパルクールが入ってきたりする。過去の映像の中でも一番「このアクションは何!?」と思う場面を入れているのは、『THE WORST』単体で楽しんでもらう気持ちに加えて、「過去にはこんなすごいことをやっているんだ」と興味を引くように仕掛けているんだろうなと思います。新規の人向けの工夫と、世界観を広げる試みが結びついて成り立っている。それがすごく面白いです。

西森:以前HIROさんにインタビューした際、「クオリティーが高い映像を作れば、映画の回想シーンでもなんでも、何回こすってもかっこいいままなんです」(参考:https://news.yahoo.co.jp/feature/1320)と言ってました。それが実践されてるんでしょうね。やっぱり、シリーズ通してのファンは、ああいう映像が入ると、高まりがある。逆に、初めて観る人は、過去のシリーズとの接続がわかるし、振り返ってシリーズを観たくなるということもあるのではないでしょうか。

成馬:『THE WORST』は、最初は何を目指してるのか、よくわからなかったのですが、3話まで観たらだんだんわかってきた気がしてます。世界を広げるというよりは細部を埋めていってる感じがするんですよね。『FM』で九龍&国家 vs SWORD地区の全面戦争までスケールを広げたあと、今度は密度を高める方向に向かったのかな、って。今までスカスカだった地図を埋めていって「この建物、実はこんなに細かく部屋が分かれていたんだ」と思わせるというか。鬼邪高にこんなに細かいディテールがあることを後出しで見せられると、解像度が上がるじゃないですか。広げる方向から、密度を濃く圧縮するほうに向かっているんだと思いました。 

西森:シリーズもので、後出しでキャラクターが増えていくというのは洋画や洋ドラではよくあるんですか?

成馬:海外ドラマではありますね。MCUの映画に対する、ドラマ『エージェント・オブ・シールド』なんかはまさにそう。映画でヒーローたちの活躍を華々しく描いて、ドラマではヒーローたち(アべンジャーズ)を後方支援する組織の捜査官たち(普通の人間)の活躍を描くことで物語や世界観を掘り下げていく。「HiGH&LOW」もそうですよね。多分、琥珀さんやコブラの話はスケールが大きくなりすぎて、動かしにくくなってるんだと思います。だから『FM』のあとに『DTC』があったのは必然で、あれって、あまり強くない人たちの話ですよね。『THE WORST』も、リーダー格ではない人たちの話を細かく描こうとしている感じがあって、それが心地良い。

加藤:アメコミだと、脇役だったキャラが単独でシリーズになったり、そこにさらに新キャラがたくさん出てまた人気になったり……というのは結構あります。「HiGH&LOW」の今のシリーズの状況は、たしかにその感じはある。


成馬:バスケ漫画の『スラムダンク』で、主人公の桜木花道がバスケットの選手として成長していくと、試合ばっかりになってしまい、花道の友達のヤンキー仲間たちの居場所がなくなって、応援シーンばかりになるじゃないですか。でも、あいつらにはあいつらの日常と物語があったはずなんですよね。『DTC』はあいつらを主役にして見せてくれている感じがあった。そういう作品って、実は意外と大事なんじゃないかと最近は思っていて。都会に住んでいない、運動がすごくできるわけでも勉強ができるわけでもない10代の男の子が「ここに俺がいる」と思える映画やドラマって、実はあんまりないと思うんですよね。そこを押さえているのは、実は新海誠だけなんじゃないかと思うんですよ。『君の名は。』と『天気の子』はそういう男の子でも観に行けるけど、少女漫画原作のキラキラ映画だと「ここには俺がいない」って思ってしまう。だからそういうときに、ダンさん(山下健二郎)のような人の物語が必要なんだと思うんですよね。

加藤:『DTC』は地に足がついてますからね。

成馬:戦闘力が高くない人たちの話もちゃんとやってくれるところが「HiGH&LOW」は面白いですよね。『THE WORST』も、今のところは団地の子たちがどれくらい強いかまだわからないじゃないですか。そういうケンカの強さとは違うところで、どれくらい個性を見せられるか? だから、現時点ではヤスキヨ(西川泰志:佐藤流司&横山清史:うえきやサトシ)が一番気になりますね。

西森:ヤスキヨの2人は持っていった感じがありますよね。佐藤さんはミュージカル『刀剣乱舞』の主役ですが、実際に舞台を見たときにも、場を自分のキャラクターの世界に持っていく力の強さを感じました。今回もそれがすごく出ていると思います。

関連記事