『HiGH&LOW THE WORST』評論家座談会【前編】「川村壱馬くんは『高橋ヒロシ漫画』感がすごい」

『HiGH&LOW THE WORST』座談会【前編】

西森「川村壱馬さんはいるだけで背景が感じられる」

加藤:僕は佐藤流司さんに、ドラマ『HiGH&LOW~THE STORY OF S.W.O.R.D.~』シーズン1の2~3話の頃の山田裕貴さんを重ねて観ています。「主役を食ってやるぞ」という気持ちを感じる。山田裕貴さんがあの頃に村山役でやっていたことを、新キャラの佐藤さんがやっているのを観ていると、早くも1周回った感があるな、と。「昔、お前みたいな目をしたヤツがいたぜ」的な、ヤンキー漫画のOB目線で観てますね。勝手に。

西森:「HiGH&LOW」は、俳優が自分の魅力の見せ方ひとつでのしあがっていける、腕試しができる場なんだなという感じがあって面白いですよね。フィクションとしてのテーマとも重なります。

成馬:基本的に、誰が目立つかっていう話ですもんね。不良同士の戦いが、そのまま、誰がいい演技を見せるかという俳優同士の演技バトルにもつながっている。ただ、次々に強面の人が出てくるのは面白いですけど、肝心の話は全然進んでいないですよね。

加藤:そこはありますね。正直、若干の素材不足は感じます。『THE MOVIE』の映像を流用しているのもそうですが、山王の面々の小ネタが各話に挿入されているじゃないですか。今のところあのやりとりは本編に特に絡む様子がなさそうなので、実は鬼邪高の映像自体はそんなに分量がないのかな? という疑惑が……。これは僕がB級映画でそういう手法をいっぱい観ているせいで、そう感じるのかもしれませんが。でも新規の映像は今回もかっこいいです。全員がものすごい“強キャラ”感を出してくる。轟(前田公輝)は明らかに今までで一番強そうで、『君主論』を読んでる場面なんかもはやズルいと思います。

西森:今回の轟、「強いだけでいいのか」というテーマも背負っていてめっちゃいいですよね。

成馬:それってまさに『クローズ』の世界観ですよね。喧嘩が強いだけではリーダーになれなくて、人望がなければいけないっていう。

加藤:高橋ヒロシ先生的な価値観では、もちろん喧嘩が強いにこしたことはないけれど、それだけじゃダメだっていうのが絶対的なルールなんですよね。『クローズ』の主人公の坊屋春道はちゃんと喧嘩が強くて、本人はリーダー面したくないんだけど、人望があるから周りが勝手についてくる。一方でリンダマンという、めっちゃ強いけどそれゆえに周りから距離を取られているし、本人もあえて距離を取っているキャラクターもいます。轟はこのポジションで、でもその中身を理解できる芝マン(龍)と辻(鈴木昴秀)はついていく。

 それでいうと、『THE WORST』の川村壱馬くんは「高橋ヒロシ漫画」感がすごいんですよ。映画『クローズZERO』シリーズでは、小栗旬さん、東出昌大さん演じる主人公はいずれもクール系というか、周囲と馴れ合わないキャラクターだったけど、川村壱馬くんの花岡楓士雄はすごく漫画版『クローズ』の主人公っぽい。あれはすごくいい。高橋ヒロシ先生の漫画を読んできた人間として、「高橋ヒロシっぽい主人公が出てきた」という嬉しさがありました。鬼邪高のメンツは「HiGH&LOW」の世界を生きているのに対して、彼は『クローズ』の世界を生きてるなって思う。ある意味今まで実写化されなかった部分、三池崇史監督や豊田利晃監督の『クローズ』ではオミットされていた部分を背負ってるというか。

成馬:「HiGH&LOW」は古今東西のバトルモノのテイストが混ざり合ってたんですけど、今回は鬼邪高が舞台の中心なので、必然的に拳で殴り合う喧嘩バトルの養素が強く出てますよね。その時に本家である『クローズ』の世界と合流したのが、面白い。

西森:川村壱馬さんはすごいですよね。まだそんなに知られていないときに『PRINCE OF LEGEND』の京極竜役をやって、連動するライブでのパフォーマンスやMCも含めて、観ている人の気持ちを持っていったじゃないですか。それが今度は『THE WORST』でしっかりセンターを張っていて。

加藤:まだ“概念じいさん”――もとい、ヤンキー漫画に出てくる”良いおじいちゃん”を具現化させた泉谷しげるさんと一緒に暮らしている場面しかないですが、「この子はすごく強いし、いい子なんだろうな」というのが伝わってくる。あれはいい意味で予想を裏切られたというか、思った以上に川村くんはすごいなと思いました。

西森:何もしていなくても、いるだけで背景が感じられるんですよね。「いいところがある子なんだろうな」って。

成馬:上手い俳優さんは細かい仕草だけで過去を感じさせるという、行間を埋める芝居をきちんとやるんですよね。そういうセンスがある人なんだろうと思います。 

加藤:彼は凄く良いですよね。『THE WORST』で川村くんが気になってTHE RAMPAGE from EXILE TRIBEのMVを観て、「当たり前だけど歌もうまいやんけ!」となって、今はすっかりTHE RAMPAGEの曲を聴き漁ってます……。まんまとLDHの策略にハマってしまいましたね。

西森:それと、鬼邪高生が「てっぺん」にこだわっているのを観ていると、「誰かが頂点を獲ることで均衡が保たれる」というのが「HiGH&LOW」の世界ではすごく大切なんだなとあらためて感じます。全員が横一線だと“かえって”均衡が保てない、強い人がトップにいないといけない、という考えが根底に流れているのかもしれません。人望があってみんながついていく人物が存在しないといけないというのが、すごく大きいテーマなんだな、って。

加藤:それは最初のドラマシリーズから一貫して描かれていますね。すごく強い個が存在したほうが円滑になるというのは、組織ならどこにでもある話ではあります。看板になる人がひとりいて、そいつについていく、という。

成馬:本編は『FM』以降だと九龍なき世界で、つまり均衡が壊れた世界になっている。ここをどうしていくんでしょうね。

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