菅田将暉の涙の熱演が訴えるメッセージ 『アルキメデスの大戦』“戦艦大和”のロマンと矛盾を描く

『アルキメデスの大戦』菅田将暉の涙の熱演

 菅田将暉にとっては、『生きてるだけで、愛。』以来の出演作、主演となると『となりの怪物くん』(土屋太鳳とダブル主演)以来、実に約1年3ヵ月ぶりとなる待望の映画『アルキメデスの大戦』が公開中だ。『ドラゴン桜』などで知られる漫画家・三田紀房の人気コミックを原作とする本作。その監督を務めるのは、『ALWAYS 三丁目の夕日』シリーズや『永遠の0』など、VFXを駆使した大作映画で結果を出してきたヒットメイカー・山崎貴である。予告編などの情報から、どうやら“戦艦大和”の建造をめぐる物語であること、菅田将暉演じる主人公は、その建造を阻止する立場の人物であること、さらには数学の天才であることが明らかとなっているけれど、実際問題、この映画はどんな映画なのだろうか?

 ちなみに、原作者である三田紀房は、3年前の対談(それでも日本人はまた戦艦「大和」をつくるだろう〜この国が抱える根本的な宿痾)で、本作の執筆動機について、こんなふうに語っていた。「この漫画を描こうとしたきっかけは、2020年の東京オリンピック・パラリンピックのメイン会場となる新国立競技場建設計画で、当初は1300億円だった総工費が3000億円を超えることになったことへの疑問でした。なぜそうなったのか? を考えているうちに、ふと戦艦『大和』が思い浮かんだんですね。建造費1億4503万円、当時の国家予算の4.4%もの巨費を投じて造られた戦艦『大和』が」。あらかじめ言っておくと、この発言は、既に映画を観た人ならわかるように、本作を考える上で、実は大きなヒントになっているのだった。

 映画の舞台となるのは、1933年(昭和8年)、欧米列強との対立を深め、軍拡路線を歩み出した頃の日本だ。現在、NHK大河ドラマ『いだてん』が描き出しているのが、ちょうど五・一五事件とロサンゼルスオリンピックがあった1932年(昭和7年)なので、まさしくその翌年にあたる頃の話である。風雲急を告げる国際情勢のなか、海軍省の幹部たちは、新型軍艦の建造案をめぐって、その意見を対立させていた。

 片や、嶋田繁太郎少将(橋爪功)、平山忠道中将(田中泯)ら、のちに“大和”と称される世界最大級の軍艦の建造を主張する大艦巨砲主義者たち。片や、永野修身中将(國村隼)、山本五十六少将(舘ひろし)ら、今後の海戦は航空機が主流になるとして空母の建造を主張する航空主兵主義者たちである。議論を重ねた結果、建造費の観点から、より安い見積もりを提出した平山案が採用されそうになるも、その不自然に安い見積もりに疑念を抱いた山本少将は、独自にその見積もりを再検討することを画策。その協力者として白羽の矢が立ったのが、100年にひとりの天才と言われながら、理由あって帝大を中退したばかりの若き数学者・櫂直(菅田将暉)だった。

 「軍隊嫌い」を公言し、「数学こそが真の正義である」という信念を持った“理性の人”でありながら、貧困にあえぐ国民の窮状を憂う“感情の人”でもある櫂は、最終的に山本少将の申し出を受け入れ、海軍主計少佐の任に就き、平山案の見積もりの再検討を試みる。原作以上に感情豊かで、ところどころコミカルでチャーミングな味付けが施された、菅田演じる“櫂直”という主人公。ピッタリと似合った制服姿の印象もあってか、その様子はどこか彼の主演作『帝一の國』を彷彿とさせる。軍事機密の名のもと隠蔽された数字をはじめ、派閥間の覇権争い、そして何よりも“新参者”である彼に対しての非協力的な態度など、櫂は数々の困難に直面する。しかし、それを彼は、天才ならでは発想と大胆な行動力、そして驚異の計算力によって、次々と打破していくのだった。

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