『なつぞら』厳格な開拓者・泰樹は、視聴者に安心感を与える“ツンデレおじいちゃん”に?
泰樹のなつへの愛情は週を増すごとに大きくなっていく。第5話で、働き手として認めたなつが学校に行く際、泰樹も手を振り返したのは最初のあからさまな“デレ”と呼べるシーン。なつがアニメーターを目指し上京する第8週「なつよ、東京には気をつけろ」以降は、泰樹の会いたい気持ちも募っていき、なつの妹・千遥(清原果耶)が北海道にやって来る第14週「なつよ、十勝さ戻って来い」では、なつからの電話に一目散に受話器を取る。
なつが東京から北海道を目指す間、千遥をなつに重ねて目一杯愛でるのも、泰樹の可愛らしいところ。「ここはなつの家だ。という事は、妹のあんたの家でもある。好きにしてればいい」と迎え入れられたことで、千遥はなつも自分と同じように幸せに育てられたことに気づく。あの頃のように、千遥にも働くことを勧める泰樹だが、そこに厳格な態度はなく、すでに笑顔が漏れてしまっている状態。なつの服を着て搾乳する千遥に、泰樹は幼少期のなつを思い出していたのだろう。千遥と入れ替わりで十勝に到着したなつに泰樹は、「お前がおらんようになって、ずっと寂しい。寂しくてたまらん」と素直な思いの丈を吐露。その後、再び東京に戻ってしまったなつからの電話に、すでに切れているにも関わらず、受話器を持ち上げ、なつの声を恋しく思う姿は、夕見子を迎えに東京までやって来た原動力にも繋がっている。
そんな“ツンデレおじいちゃん”の泰樹は、甘党という面も可愛らしい。なつに告げる「それはなつが……いや……」というセリフの後には、「東京のパフェというのを食べたくなったんだ」と続き、夕見子とパフェを食べて帰ることになる。これは幼少期に、なつと雪月からて2人きりで食べたアイスクリームのオマージュでもある。第6週で照男との結婚を画策していたことに気づいたなつが「私を他人だと思ってるからでしょ」と涙を流し、深く落ち込む泰樹だったが、富士子からお汁粉を差し出されると途端にバクバクとたいらげる。デザートの早食いのシーンは、第8週「なつよ、東京には気をつけろ」第47回にて、雪月でクリームソーダを差し出される場面にもある。富士子と小畑家の面々が話し込んでいる間に、泰樹はクリームソーダを完食し、「これ、うまいな。もう一杯お代わりくれるか?」と平然とした表情で一言。どんな時も“好き”という一心にて裏表のない生真面目な態度が、クスッとした笑いと作品の空気感を和らげるいい塩梅になっている。
短編漫画映画『ヘンゼルとグレーテル』の樹の巨人の後ろ姿は、泰樹の手を振る後ろ姿からインスピレーションを受けたものだ。なつからそのことを教えられた泰樹は、どんな“デレ”を見せてくれるのだろうか。そんな想像をしながら、これからも2人の相思相愛を見守っていきたい。
■渡辺彰浩
1988年生まれ。ライター/編集。2017年1月より、リアルサウンド編集部を経て独立。パンが好き。Twitter
■放送情報
連続テレビ小説『なつぞら』
4月1日(月)〜全156回
作:大森寿美男
語り:内村光良
出演:広瀬すず、松嶋菜々子、藤木直人/岡田将生、吉沢亮、清原翔/安田顕、音尾琢真/小林綾子、高畑淳子、草刈正雄ほか
制作統括:磯智明、福岡利武
演出:木村隆文、田中正、渡辺哲也ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/natsuzora/