『監察医 朝顔』上野樹里が時折見せる儚げな表情 朝食シーンでの父娘の会話が意味するもの
上野樹里が主演を務める月9ドラマ『監察医 朝顔』(フジテレビ系)。本作は“法医学ドラマ”のフォーマットを取っているが、実質的には主人公と周囲の人たちの人間模様および心象風景を丹念に綴った純然なヒューマンドラマである。
新人監察医として日々運び込まれるさまざまな遺体と向かい合う主人公・万木朝顔(上野樹里)。彼女の心の中には、東日本大震災で行方不明となったままの母・里子(石田ひかり)の姿が残り続けている。
その人を“不詳の死”にさせまいと、懸命に遺体の声に耳を傾ける朝顔だが、時折どこか儚げに映るその表情が印象的だ。それは時任三郎演じる朝顔の父・平(たいら)も同じである。父と娘、それぞれに抱えた哀しみは、ドラマ全編を通じて静かな川のように流れ続ける。『あまちゃん』(NHK総合・2013年)や『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』(フジテレビ系・2016年)など、震災を取り扱ったドラマはこれまでにもあったが、本作はまた違う形で問いかける作品となっている。
そんな中、目に留まったのが、1話と2話の冒頭、父娘で朝食をとるシーンだ。
どちらのネクタイが似合うか、なぜ大事なニットを無造作に洗ってしまったのか、夕食のメニューは何か……出勤前の慌ただしい中、食卓を挟んで交わされる何気ない親子の会話。しかし、それは二人にとって互いの存在を確認する非常に大切な儀式のように見えた。
言うまでもなく、人生は予測不能の出来事の連続である。何が起こるか分からない不安と恐怖にふと胸が張り裂けそうになるが、それでも人は生きていかなければならない。そんな二人の心をつなぎとめているのが、朝のあのひとときなのだ。今後も必ず登場するかは分からないが、このシーンが大事なアクセントになっていることは間違いない。