『きのう何食べた?』はなぜ視聴者の心を掴んだのか “家族”の物語として再構築したドラマ版の凄み

『きのう何食べた?』はなぜ視聴者の心を掴んだのか “家族”の物語として再構築したドラマ版の凄み

 初回の冒頭で弁護士であるシロさんが向き合っているのは、実の息子に会いたくても会う事が許されない母親(佐藤仁美)だった。彼女は精神的な問題を抱えているだけで、決して悪人ではない。それでも彼女は、元夫とその妻と、彼女の息子がお弁当を広げ、新しい母と子が互いの口元についた食べかすをとりあい、夫婦が思わず目配せする、自分がいなくても成立してしまった家族の「幸せの光景」を目の当たりにすることになる。でもどうすることもできないから、泣きながらシロさんの作ったお弁当を食べ、困ったシロさんは彼女と一緒にただ食べることしかできない。

 テツさんが「僕が歯を食いしばって貯めた金を田舎の両親にビタ一文渡したくない」と言った時、その背景が語られることはなかった。美容室の店長・三宅(マキタスポーツ)の妻・レイコ(奥貫薫)の、ケンジにだけ伝える静かで気迫のある宣言一つで、なんだかんだ続いているように見える夫婦関係の破綻は可視化される。生活保護の扶養照会だけが定期的に届く父親とケンジの関係は、ケンジが「どんなに関係が深い人でも、許せない人と続けていくのはしんどい」と言ったように今後結びつくことは恐らくないのだろう。それでも、彼が夢中で作るサッポロ味噌ラーメンは、父親が機嫌のいい時に作ってくれた思い出の味でもあるわけで、そこにあるのは憎しみだけではない。

 きっと、描かれていない背景の部分に、悪人は誰一人登場しないのだろう。ただ何かしらの事情を抱えた弱い人だったり、ケンジの言う「まさか」の出来事が起きたり、シロさんの親がそうだったように愛し方や、理解の仕方を間違っていたりしたのかもしれない。それでも壊れてしまったものはしょうがないのだ。あっけなく、愛おしかったはずの人間関係が絶たれることの切なさや儚さを、この物語、並びに彼らは、よく知っている。そしてそれは誰かが介入しようとしたところでどうにかなるものではないことも。

 12話の中で季節が一巡してクリスマスと正月が2度繰り返されるドラマは珍しい。4話において「うちに来る?」と問いかけた、出会った頃のシロさんがいた美容室の壁は真っ白で、次のショットでその壁はクリスマス模様に変わり、3年が過ぎた現在になる。窓越しに見える仕事中のケンジを見上げて微笑むシロさんと、シロさんのいた場所に降りしきる雪を窓から見つめるケンジがいる。あまりにも美しい、時間の流れと積み重ねられてきた愛の柔らかさにうっとりする。

 同じメニューのクリスマス、前年に買った卓上クリスマスツリー。2人のクリスマスが、次の年は4人になり、片や実家、片や1人の正月が、2人でシロさんの実家に向かう正月になる。同じ行事を繰り返すからこそ、変わらないようでちゃんと変わっている、彼らの関係性や心情の変化を垣間見ることができる。

 いつか壊れるかもしれない関係性を大切に、大切に繋げていこうとする彼らが、ただ共に日々を過ごし、食を通して季節を感じ、人と出会い、敬遠していた両親のことを理解し、ちょっとずつ家族になっていく奇跡。それを目の当たりにすることができるから、こんなにもこのドラマは愛おしい。

 まだ、もうちょっとだけでいいから、彼らを見続けていたいと思わずにいられない。

■藤原奈緒
1992年生まれ。大分県在住の書店員。「映画芸術」などに寄稿。

■放送情報
『きのう何食べた?』
テレビ東京系にて、毎週金曜深夜0:12〜
※テレビ大阪は翌週月曜深夜0:12〜放送
原作:よしながふみ『きのう何食べた?』(講談社『モーニング』連載中)
主演:西島秀俊、内野聖陽、マキタスポーツ、磯村勇斗、チャンカワイ、真凛、中村ゆりか、田中美佐子、矢柴俊博、高泉淳子、志賀廣太郎、山本耕史、磯村勇斗、梶芽衣子
脚本:安達奈緒子
監督:中江和仁、野尻克己、片桐健滋
チーフプロデューサー:阿部真士(テレビ東京)
プロデューサー:松本拓(テレビ東京)、祖父江里奈(テレビ東京)、佐藤敦、瀬戸麻理子
OPテーマ:「帰り道」O.A.U(OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUND)<NOFRAMES / TOY’S FACTORY>
EDテーマ:「iをyou」フレンズ<ソニー・ミュージック・レーベルズ>
制作:テレビ東京/松竹
製作著作:「きのう何食べた?」製作委員会
(c)「きのう何食べた?」製作委員会
公式サイト:https://www.tv-tokyo.co.jp/kinounanitabeta/
公式Twitter:@tx_nanitabe

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