「無名新人」なぜ主役に? 視聴者と作り手に刺激をもたらす“新たな原石”に注目

 ドラマにおいては、近年はキャスティングが増え、オーディションで選ばれる無名新人の主役が減っているとはいえ、NHKの朝ドラこそが「無名新人+経験豊富な脇役勢」のフォーマットとなっていると言えるだろう。

 朝ドラの場合は、半年間という長い期間があるため、素人でたどたどしかったヒロインが役柄の成長とともに役者としても成長していく姿を、共演者もスタッフも視聴者もみんなで見守り、応援していくという楽しみ方が定番だった。

 また、『あさが来た』(NHK総合)でブレイクしたディーン・フジオカや、狂言の世界から映像の世界に引っ張り出された『あぐり』(NHK総合)の野村萬斎、舞台俳優として活躍していたところからラブコールを受けてテレビドラマに進出した『オードリー』(NHK総合)の堺雅人や佐々木蔵之介など、ある意味テレビでは名前が知られていなかった人たちが、畑違いの場所から抜擢されるケースも朝ドラには多々ある。

 無名の新人を起用するメリットは、手垢がついていないために、視聴者側が役柄と同一視しやすいこと。演じ手も一体感を持ちやすいこと。

 また、演技経験があまりない者の場合は、経験で獲得してきたテクニックに頼らず、役柄に全力でぶつかり、全力で作品を生きる場合が多いこと。得意な表情や仕草などの「型」を持たず、変なクセもついておらず、作り手が想定していなかったような、思いがけない新鮮な表情やリアクションが飛び出すことがあることなど……。

 視聴者の中には、いつでも新たな「原石」を探している人たちが少なからずいる。作り手側にとっては、その思いはますます強いだろう。だが、視聴率や興行収入、さらに撮影期間の制限や物理的な手間などを考えると、無名の新人俳優をメインの役柄に起用するのは、楽なことではない。

 しかし、その楽ではないことにあえて挑戦している監督や作品、見出された役者たちには、胸を熱くさせる膨大なエネルギーが満ちている。だからこそ、私たちは「無名新人俳優」と、その作品に強く惹かれてしまうのだろう。

※河瀬直美の「瀬」は旧字体が正式表記

■田幸和歌子
出版社、広告制作会社を経てフリーランスのライターに。主な著書に『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)などがある。

■公開情報
『町田くんの世界』
全国公開中
出演:細田佳央太、関水渚、岩田剛典、高畑充希、前田敦子、太賀、池松壮亮、戸田恵梨香、佐藤浩市、北村有起哉、松嶋菜々子
監督・脚本:石井裕也
脚本:片岡翔
原作:安藤ゆき『町田くんの世界』(集英社マーガレットコミックス刊)
配給:ワーナー・ブラザース映画
(c)安藤ゆき/集英社 (c)2019 映画「町田くんの世界」製作委員会
公式サイト:http://wwws.warnerbros.co.jp/machidakun-movie/

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