『生きてるだけで、愛。』本谷有希子×関根光才監督対談ーー表現者は“共感時代”に何を描くべきか
予想していなかった劇場公開時の反響
――実際に完成した映画を観て、原作者である本谷さんは、どんな感想を持ちましたか?
本谷:率直に、わからなかったっていうのはあります。自分の知っている話、自分の知っている筋で進んでいくから、それが面白いのか面白くないのか、正直わからなくて。それは、自分が書いているものについても、そうなんです。読者の反応を見て、初めて「あ、そうなんだ。これはアリなんだ」とか「あ、これはやっちゃったな」とか思うので。だから、この映画を観たときも、これでいいのかどうなのか、正直わからないなって。それは監督にも言いました。
関根:言ってましたね(笑)。
――それは逆に言うと、それぐらい自分のものとして観ることができたということですか?
本谷:いや、やっぱり違うものにはなっていたんですよね。ちゃんと監督のイメージする『生きてるだけで、愛。』の世界観になっていました。それは、はっきりわかったんです。でも、それが良いのか悪いのかは、よくわからなかったっていう(笑)。
関根:まあ、そのへんは、正直僕もわからないですけどね(笑)。
本谷:そうですよね? 自分の作ったものって、よくわからないですよね。
関根:映画を実際に作っているときは、いろいろ入り込んでしまうというか、単純に自分たちの中で必然だって思っていることを、自分のアングルから並べているわけじゃないですか。それはもう、いいとか悪いとかを超えちゃっているというか、「これ、最高でしょ?」みたいな感じで作っているわけではないんですよね。だから、“寧子”役の趣里ちゃんも、初号を観てもらったあとは、一瞬何かもうアフアフしていて。
本谷:ですよね(笑)。
関根:で、「どうだった?」って聞いても、「どう受け止めていいのか、まだよくわからないです……」って言っていて。まあ、それはそうだろうなって、何か思っちゃったんですよね。
――今回のパッケージの「豪華版」に収録されるメイキングの映像も観ましたが、今回の映画は、割と役者と相談しながら撮っていったところもあったようで。特にラストシーンは、かなり現場判断みたいなところがあったようですね?
本谷:あ、そうなんですね。割と臨機応変というか、即興みたいなものもあったんですか?
関根:即興とまではいかないけど、最後のシーンは、主演の2人の実際の雰囲気を見ながら、柔軟に対応できるように準備はしていました。もちろん映像だから、あらかじめいろいろ決めなきゃいけないことはあるんですけど、その中でできるだけのことはして。最後のシーンだけは、絶対決め込みたくなかったんですよね。やっぱり、主演の2人がそれまでの時間を経過したあと、どう感じるかっていうのが大事かなって思ったので。
本谷:関根監督は、結構細かく演出するほうなんですか?
関根:いや、そんなに細かくないと思います。ある程度は言いますけど、それで役者がやりにくくなるようなことは、あまり言いたくないなっていうのがあるので。
――とはいえ、この物語の登場人物たちは、みんなわかりやすい人たちではないですよね。それだけに、役者さんたちもいろいろ悩まれたのでは?
関根:そうですね。だから、言うべきことと言わないほうがいいことがありました。趣里さんに関しては、“寧子”という役のこと以上に、趣里さん自身がどういう人生を生きてきたとか、どういう経験をしたとか、そういうことを話すようにしたんですよね。そのほうが大事というか、それによってお互いが見ているものをすり合わせることができると思ったので。「そういう経験があるなら、このシーンはきっとここまでいけるよね」とか。そう、僕自身、長編映画を監督するのは今回が初めてだったし、向こうにとっても「お前、誰やねん?」みたいなところがあるじゃないですか。
本谷:そんなこと考えるんだ(笑)。
関根:でも、そういう部分での信頼関係ができるかできないかみたいなことが、今回の映画の場合、きっと大事なんだろうなっていうのは、ちょっと思っていたんですよね。
――公開後のリアクションについては、いかがですか? 「これは私の映画だ!」じゃないですけど、個人的には予想以上の反響があったように思ったのですが。
本谷:へえ。そうだったんですか?
関根:そうみたいですね。それは僕も若干動揺したというか、映画が公開されたらもっと賛否両論が湧き起こるかなと思っていたんですけど、今おっしゃった「これは私の映画だ!」じゃないですけど、割と真正面から共感してくれる方々が多くて。それに最初、結構ビックリしたんです。でも、公開からしばらく経って少し落ち着いてきたら、そうじゃない意見とかも結構出てきて、そこである種ホッとしたところもあったというか。ちゃんといろんな見方で、この作品を観てもらえたんだなって、ちょっと安心したんですよね。
本谷:そこで安心するんですね。
関根:そうですね(笑)。「いや、全然共感できなかった」とか「なんだこれ?」みたいなふうに言う人もいて……でも、そのほうが健全じゃないですか。もちろん、この映画に共感してもらえるのは、すごく嬉しいことなんですけど、「そんなに共感して、大丈夫ですか?」っていうのも、どっかでちょっとあって。
本谷:このよくわからない話が共感されるなんて、今の日本は大丈夫かって?
関根:そう、「救われた!」じゃないですけど、あんまり諸手を挙げて共感されると、ちょっと心配になるじゃないですか。必ずしも、そういうつもりで作ったわけではなかったので。