藤野涼子の「好き」に心を撃ち抜かれる 『腐女子、うっかりゲイに告る。』の“尊さ”の象徴に

 このドラマにおいて、何より“尊い”のは、藤野涼子演じる三浦紗枝だろう。映画『ソロモンの偽証』や『ひよっこ』(NHK総合)でおなじみ、真面目そうなイメージが強かった藤野の、シュシュでまとめたポニーテール姿がびっくりするほど愛くるしい。そして、「好き」という真っ直ぐな思いから発せられる台詞の数々に何度撃ち抜かれてきたか。

「好きなものを好きだと言える時間が一番好き」「丁寧に挨拶し合えて、そこに親愛が宿っているのが、恋人」「たどたどしく踊ろうとする瞬間、超幸せ」「同じ速度で同じものを見つめられるって最高だね」。

 「見えている世界から別の世界を想像してあげる」ことが得意な彼女は、一見ありふれた日常を掬い上げ、そこに幸せを見出す。彼女は、好きな人と一緒にいることができる幸せを全身で感じ、表現することができる人だ。それによって、純が憧れるところの「普通」の日常は、たちまちキラキラと光を浴びて輝き始める。それを観ている視聴者もまた、恋というもののあまりの美しさに驚嘆するのである。

Queen - Somebody To Love (Official Video)

 彼女は強い。6話において、純の自殺未遂という事実を前に落ち込む紗枝と、純の幼なじみ・亮平(小越勇輝)は、純と亮平の思い出の場所である公園に行く。「安藤君のこと、何も知らなかった」と言う彼女は、どんなに親密になっても彼らの思い出の中に入って行動を共にすることはできない。1人で苦しんでいた過去の純に、時間を巻き戻して寄り添うことはできないのだ。それでも彼女は、少しでも彼に近づこうと、純が好きなQueenの曲をイヤホンで聞きながら、1人ブランコに佇む過去の彼の隣に座る。キャメラが一度紗枝を見つめる亮平の視線に寄り添うと、そこには現実の、無人のブランコに寄り添う紗枝という切ない光景が広がっている。だが、次の瞬間、意を決したようにイヤホンを外した紗枝の耳、さらには視聴者の耳にも、まるでこれまでの純の気持ちをそのまま代弁するかのような「Somebody To Love」が鳴り響いている。懸命に寄り添う者に、世界は微笑むのである。

 彼女は無敵だ。彼女なら、指で拵えたピストルで、あらゆる壁を取っ払い、簡単に乗り越えることができるのではないか。

「The Show must go on.」

 バーの彼女(サラ・オレイン)が言ったように、降りることのできないショーは始まってしまった。体育館のステージ上に駆け上がる彼らを、見逃すわけにはいかない。

■藤原奈緒
1992年生まれ。大分県在住の書店員。「映画芸術」などに寄稿。

■放送情報
よるドラ『腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。』
NHK総合 毎週土曜夜11時30分から11時59分 (29分・連続8回予定)
原作:浅原ナオト「彼女が好きなものはホモであって僕ではない」
脚本:三浦直之
出演:金子大地、藤野涼子、小越勇輝、安藤玉恵、谷原章介 ほか 
演出:盆子原誠、大嶋慧介、上田明子、野田雄介
プロデューサー:尾崎裕和
制作統括:篠原圭、清水拓哉
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/drama/yoru/fujoshi/

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