『名探偵コナン ゼロの執行人』安室透はどう描かれた? キャラクターの魅力引き出す劇場版の作り方

 それでは、『ゼロの執行人』で安室透はどのように描かれたのか? 本作の中ではバーボンとしての顔は描かれることがなく、本名である降谷零としての公安所属の警察官の姿が強調されていた。彼の国を守るという正義のために、時には交流のある毛利小五郎すらも陥れるような手段を取る、あるいは見逃す姿は普段とは違う魅力を醸し出していた。安室透の声優を担当する古谷徹も3つの顔に合わせて演技を変えることを数々のインタビューで強調しており、その演技がキャラクターの味となり声に出るアニメならではの魅力に繋がっている。

 本作において大きく変わった出来事といえば、2011年から7作にわたりコナンシリーズの劇場版作品の監督を務めてきた静野孔文から立川譲に交代したことだろう。静野の作品は派手な爆発シーンや『純黒の悪夢』では安室と赤井の殴り合うシーンなどのアクションが重視されている印象が強かったが、『ゼロの執行人』では警察庁・警視庁・検察庁などの各部署の力関係も働いた政治的なやりとりや、会話による推理シーンなども多く、社会のためならば多少の倫理上の問題も無視されることが正義なのか? という社会的な一面も描き、アクションよりもミステリー作品としてのコナンという形を重視した、重厚な物語となっている。立川はインタビューにて「コナンが光、安室を闇として描いている」と明かしており、安室透の持つ激しい一面だけでなく、時には目的のためならば手段を選ばない冷静な一面などで観客を魅了していた。

 またコアなアニメファンであれば安室透という名前と担当声優が古谷徹ということから連想するのが『機動戦士ガンダム』のアムロ・レイの存在だろう。原作者の青山剛昌もガンダムから大きな影響を受けていると公言しており、安室透/降谷零という名前もガンダムの影響がうかがえる。それは『ゼロの執行人』でも発揮されており、ガンダムシリーズの名シーンのオマージュと思われる場面もある。

 もちろん、本作はあくまでも子ども向けのファミリー映画である。安室透を中心としたコナンシリーズの魅力をわかりやすく描きつつ劇場を訪れた子どもたちへのメッセージも兼ね備えている。作中では大きなピンチの際に阿笠博士のドローンと少年探偵団の子どもたちが活躍する際に「子どもたちが世界を守る」というセリフがあった。本作における少年探偵団の3人は警察庁・警視庁・検察庁の3つの組織と対になる存在とも受け取れる。大人の暗躍に対して純粋な子ども達が活躍することで対比表現となっているのだ。

 安室透という人気キャラクターの魅力を最大限に活かしながらも、ミステリーやアクションの見どころも用意しており、豊富な見どころを持つ作品となった結果、90億円以上の興行収入につながった『ゼロの執行人』。『紺青の拳』がこの興行収入を超えてくるのかも含めてこの先のコナンの動きに注視していきたい。

■井中カエル
ブロガー・ライター。映画・アニメを中心に論じるブログ「物語る亀」を運営中。@monogatarukame

■放送情報
『名探偵コナン ゼロの執行人』
日本テレビ系『金曜ロードSHOW!!』にて、4月26日(金)21:00~23:14放送
※放送枠20分拡大
原作:青山剛昌
監督:立川譲
声の出演:高山みなみ、山崎和佳奈、小山力也、山口勝平、古谷徹、上戸彩、博多大吉
(c)2018 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会

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