『キングダム』には日本映画界の夢が託された? 「再現不可能」の声を跳ね返した佐藤信介らの手腕
古代中国の王宮や国家間の戦争を題材にした作品で、なおかつ荒唐無稽な描写も多い『キングダム』。リアリティと現実からの飛躍の塩梅も難しいだろうし怯むのは当然だが、佐藤監督はその実写化という巨大プロジェクトを引っ張り見事にそのハードルを越えて見せた。
『キングダム』の魅力は最初は鼻で笑われていた主人公たちの「奴隷が天下の大将軍になる」、「500年戦乱が続く中華を統一する」といった無謀な夢がどんどん実現していく痛快さにもある。
ファンからの反発も強く、作り手たちも最初は不安視していたような企画が結実していくさまは、劇中で信たちが絶望的な状況から実力で逆転していく姿に重なるし、一部からは「信のイメージとは違う」と言われていた山崎賢人(正直、また山崎賢人かと筆者も当初思ったが)がトレーニングや役作りでどんどん信に近づいていくのも、強敵を倒して成長していく主人公にシンクロしている。
そしてスケール感のあるロケーションを求めて中国での撮影まで行った実写版『キングダム』は期待通り会心の一作となっていた。脚本に参加した原作者の原泰久も含め、作り手側の「必ず成功させる」という思いが本編のストーリーにそのまま乗っかっているかのようだ。もちろん思いだけでなく、集まったスタッフ・キャストの技量も素晴らしかった。
長年日本の最前線を走ってきたアクション監督・下村勇二のアクション演出や、『ブレードランナー2049』でもコンセプトアートを担当した田島光二による様々な美術や衣装デザインも作品のリアリティやスケール感に大きく寄与している。
そして原作ファンとしてはキャストの再現度は大満足。
山崎賢人と吉沢亮が素晴らしかったのは言うまでもないが、脇を固めるキャストが軒並みハマっていたのが大きい。
悪役・成蟜を演じた本郷奏多の憎らしさと小物感は見事だし、山の王・陽端和役の長澤まさみは抜群のスタイルとクールな佇まいがそのまま原作から出てきたような再現度だった。ちなみに原作ファンが一番心配していた大将軍・王騎役の大沢たかおもしっかり王騎に見えた。『キングダム』随一の超人かつアクの強いキャラクターなので正直ハマる人なんて誰もいないのではと思っていたのだが、肉体改造でビルドアップした体躯や不敵な表情、少し不気味なオネエ口調などきっちり原作に忠実な王騎を作っていて、ある意味本作で一番驚いたポイントだったかもしれない。