『マローボーン家の掟』監督が語る、70年代サスペンス/ホラー映画から受けた影響

『マローボーン家の掟』監督が語る映画愛

重要になっているのは「境界線」

ーー『永遠のこどもたち』などもそうですが、あなたが映画の題材として「子ども」にひかれるのはなぜでしょうか?

サンチェス: 僕は「人格が形成される時はいつなのか」ということに興味があるんだ。それから、「子どもから大人になる時の境目はどこにあるのだろう」ということにも。いったん大人になってしまうと子どもには戻れないけど、自分の中にいる子どもの気持ちは死なない。大人になると一旦それに蓋をして、子どもの時のことは忘れて過ごす人もいるけれど、僕は自分の中にいる子どもをもう一度取り出して、その子どもがどういう風に変遷していくのかを表していったんだ。

 『マローボーン家の掟』のなかで重要になっているのは「境界線」。「子どもから大人になる時」や「生と死」、「ファンタジーとサスペンス」の境界など、いろんなところでの“境目”を描きたかったんだ。

ーー4人の兄妹たちは、とても親密な空気を醸し出していますよね。

サンチェス:撮影を始める前に、みんな家族と離れて実際にアストゥリアス(スペイン北西部にある本作のロケ地)の撮影現場で2週間ほど一緒に過ごしたんだ。一人一人どのように役作りをしていくか、別々の演出の仕方をしなければいけなかったところは、少し難しかったかもしれないね。撮影前のこの2週間は一度もリハーサルはせずに、兄妹たちはどう過ごしてきたのか、母親とはどんな人物だったのか、いつニューイングランドに移り住もうとしたのか、それを決心した時はどういう気持ちだったのかというテーマを、即興で演じてもらった。それによって、家族としての関係が形成されたと思うよ。主演のジョージ・マッケイは、規律正しくいつも周りに目を配る人で、周りと一緒にどうアンサンブルを取っていくか常に試してくれるから、他のキャストから非常に頼りにされていたね。

参考にしたのは、アンドリュー・ワイエスの絵画

ーー本作には、あなたとバヨナの映画愛が込められているとのことですが、それは具体的にどのようなものでしょうか?

サンチェス:僕は60年代後半〜70年代のサスペンスやホラー映画が好きで、たくさん観ていた時期に気づいたのは「一番恐ろしいものは出てこない」ということだった。見えないものが一番恐ろしいということだね。そういった映画的言語は、現在あまり使われていないと思ったので、それに対する愛をこの映画で表すことができたと思っているよ。その年代の映画は非常に美しくて、撮影も細かくて念入りだから、当時への愛を込めてこの映画を作ったんだ。バヨナも同じように当時の映画が好きで、ふたりで映画祭に行った時に一緒に見た作品もいくつかあるよ。

ーー何か参考にした作品はありますか?

サンチェス:映画ではないんだけど、今回は美術と撮影にすごくこだわっていて、アンドリュー・ワイエスの絵画を一つのイメージにしました。彼はニューイングランドの農場をたくさん描いている人で、そこで描かれている木造の家とその周りに茂った夏草は、幸せな時には楽しそうに見えるけど、少しでも自分の中に不安があるとその草がなびくことで不安になる。『マローボーン家の掟』では、「鏡の中をみるのが怖い」という点や、「家の外は明るいのに、家の中に入ると暗い」、「それぞれの部屋に3つドアがある」という家の描写も細部までこだわっていて、常に落ち着かないような演出をしたんだ。幸せな時はみんなで家の中で集まって幸せを感じるけれど、なにかをふっと凝視すると怖い。あの家自体が迷路みたいな構造になっていて、そこも生かすことができたよ。

(取材・文=若田悠希)

■公開情報
『マローボーン家の掟』
全国公開中
監督・脚本:セルヒオ・G・サンチェス
製作総指揮:J・A・バヨナ
出演:ジョージ・マッケイ、ミア・ゴス、チャーリー・ヒートン、マシュー・スタッグ、アニャ・テイラー=ジョイ
配給:キノフィルムズ/⽊下グループ
2017年/スペイン・アメリカ/英語/カラー/シネマスコープ/5.1ch/110分/⽇本語字幕:佐藤恵⼦/原題:Marrowbone
(c)2017MARROWBONE,SLU;TELECINCOCINEMA,SAU;RUIDOSENELATICO,AIE.Allrightsreserved
公式サイト:www.okite-movie.jp

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる