『私の頭の中の消しゴム』から14年 韓国版『いま、会いにゆきます』に見るソン・イェジンの女優としての成熟

韓国版『いま、会いにゆきます』レビュー

 『おいしいプロポーズ』(2001年)でドラマ初主演(ソ・ジソブと共演!)を果たしたソン・イェジンが、「国民の初恋」と称され大衆に広く知られたのは、2002年のことだった。きっかけは、母親と娘の初恋を重ねて一人二役を演じた映画『ラブストーリー』。翌年にはドラマ『冬のソナタ』のユン・ソクホ監督に抜擢され、『夏の香り』でソン・スンホンとの運命の愛を演じた。

 「ロマンスクイーン」と呼ばれるようなったソン・イェジンは一方で、ナンパ師に扮した『ナンパの定石』(2005年)、おおざっぱな干物女を演じた『個人の趣向』(2010年)など、コミカルな役にも挑戦するように。

 そして、コミカルとピュア、両方の魅力を存分に発揮したのが、最新ドラマ『よくおごってくれる綺麗なお姉さん』(2018)だ。恋と仕事に行き詰った30代の女性が、チョン・ヘイン扮する年下男子に愛される姿は、胸キュン必至。女性から見ても「かわいい」、そして同世代から見ると「うらやましい」、そんなキャラ。妬まれたり、嫌われたりしないのは、ソン・イェジンだからこそ、なのだ。

 芸能界デビューから今年で20年。

 『白夜行 -白い闇の中を歩く-』(2009年)のようなサスペンスや時代劇『ラスト・プリンセス 大韓帝国最後の皇女』(2016年)など経て、『Be With You~いま、会いにゆきます』で再びピュアなラブストーリーを選んだソン・イェジン。

 韓国メディアALLETSのインタビュー(2018年3月19日)でこう明かす。

 「韓国でも有名な原作を映画化することには、プレッシャーも感じましたが、新人であるにもかかわらず明確な信念を持つイ・ジャンフン監督に信頼を寄せ、出演を決めました」

 撮影前には、作品を分析し、監督にアイディアを提案。そのため、スアにはソン・イェジン自身がかなり投影されているという。

 「例えば、スアが息子と遊ぶ場面は、甥といるときの私。負けず嫌いだから、子ども相手でも手加減しない。ゲームをしても、いつも勝とうするんです(笑)」。一方で、「ウジンと手をつなぐか迷うシーンでは、鈍くなっていた心の底にあったピュアな感情が呼び起され、ときめきを感じた」とも。

 ラブロマンスについて、彼女は同インタビューでこう語る。

「私にとって最も大事な意味を持つ、故郷のようなもの。人々に愛していただいた原点であり、帰ると落ち着く場所です」

 完璧主義であるがゆえ、「20代の頃はラブロマンスを熾烈に熱心に演じてきたが、今回はリラックスできた」というソン・イェジン。『Be With You~いま、会いにゆきます』は、30代を迎えてさらに輝きを増す彼女の、等身大の今を映し出す鏡のような作品でもある。

■桑畑優香
ライター・翻訳家。
94年『101回目のプロポーズ』の韓国リメイク版を見て、似て非なる隣国に興味を持ち、韓国へ。延世大学語学堂・ソウル大学政治学科で学ぶ。「ニュースステーション」ディレクターを経てフリーに。ドラマ・映画のレビューを中心に「韓国TVドラマガイド」「韓国語学習ジャーナルhana」「現代ビジネス」「AERA」などに寄稿。「韓流旋風」に映画コラム『ヨクシ! 韓国シネマ』を連載中。共著に『韓国テレビドラマコレクション』(キネマ旬報社)ほか。

■公開情報
『Be With You ~いま、会いにゆきます』
シネマート新宿ほか全国公開中
監督:イ・ジャンフン
出演:ソ・ジソブ、ソン・イェジン、キム・ジファン、コ・チャンソク
原作:市川拓司『いま、会いにゆきます』(⼩学館刊)
配給:クロックワークス
2018年/131分
(c)2018 LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved.
公式サイト:http://klockworx-asia.com/be-with-you/

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