「週末映画館でこれ観よう!」今週の編集部オススメ映画は『ワイルドツアー』
リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、リアルサウンド映画部の石井が『ワイルドツアー』をプッシュします。
『ワイルドツアー』
『きみの鳥はうたえる』で数々の映画賞に輝き、いまや最新作が絶対に見逃せない監督の1人である三宅唱監督の最新作がこの『ワイルドツアー』。柄本佑、石橋静河、染谷将太という日本映画界屈指の名優たちが集った前作に対して、本作に出演する役者たちは山口県で暮らす中高生たち。しかも、主役のタケとシュンを演じた2人は、演技経験すらなかったという。山口芸術情報センター(通称:YCAM)が制作しているということもあり、情報だけを受け取れば、いわゆる“実験作”のような印象を抱くかもしれません。しかし、侮るなかれ。『Playback』『THE COCKPIT』『きみの鳥はうたえる』などに連なる、青春のきらめきを捉えた素晴らしい作品に仕上がっています。
中学3年生、「彼女」「彼氏」「告白」「破局」云々、いわゆる“恋バナ”が、教室から盛んに聞こえてくるあの頃。気になる子の何気ない一言で喜んだり、激しく落ち込んだり、それを周囲に気付かれまいとして必要以上に尖ってみたり。思い出すだけで恥ずかしくなる光景がふとよみがえる筆者なのですが、本作『ワイルドツアー』はそんなあの頃のときめきを、(嫌な気持ちにさせずに)鮮やかによみがえらせてくれます。
物語は、YCAMで実際に行われている「ワークショップ『山口のDNA図鑑』」に参加した中学生のタケとシュンが、ワークショップ進行役の大学生・うめちゃんに恋するというものです。まず、舞台となっているYCAMが本当に格好いい。“バイオテクノロジーを用いたワークショップ”なんて、どれだけ最先端なんだ! という話です。しかも参加は無料だとか。本作のインタビューで三宅監督も語っていますが、こんな施設のもとで育った子どもたちは、どんな大人になっていくのでしょう。タケとシュンが楽しそうにワークショップに参加している様子は、素直に羨ましいと感じます。YCAMの素敵さは、一昨年当サイトでも掲載した爆音映画祭のレポートでも伝わるかと思います。
タケとシュンが魅了されてしまううめちゃんは、まさに“小悪魔”という言葉がぴったりな大学生。他人行儀にはならずに、下の名前で呼んでくれて、突然2人きりになってボディタッチも極めて自然に当たり前のように行う……。恋に免疫のない中学3年生は、そりゃあイチコロです。興味のないフリを装いながら、うめちゃんとの距離を縮めていこうとする2人がとにかく微笑ましい。
三宅監督の過去作にも通じる点ですが、映画を見ていると、不思議と作品の中に入り込み、彼らと一緒にYCAMでの青春を過ごしているような気持ちになります。特筆すべきは終盤に訪れるタケの一大決意のシーン。タケと一緒に耳たぶが赤くなるような、思わず「頑張れ!」と叫び出したくなるような、そんな気持ちになりました。