山口紗弥加と白石聖の「正義」が対立するときーー『絶対正義』は私たち自身の物語だった

山口紗弥加と白石聖が対立する『絶対正義』

 「私、何か間違ったこと言ってる?」――高校生時代の範子は、度を超した潔癖さと正しさを持ちつつも、感情の欠落したアンドロイドのように見えた。そこで上辺の「親友ごっこ」「家族ごっこ」をしてきた友人たちは、正論で論破されると、ドン引きしつつも黙り込んだり、見て見ぬフリをしたり、自分の有利になることは利用したりしてきた。そこで範子に正面から「間違っている」と言うのは、面倒くさいし、案外便利な存在でもあったからだ。

 だからこそ、利用するときは利用するくせに、廊下を歩くときは、範子はいつも一人ちょっと後ろにいたし、おしゃべりの輪からも少し外れていた。例えば、ノートを借りるときだけ、勉強を教えてもらうときだけ、頼みごとをするときだけ「親友」になったり、褒めちぎったりする、少女特有のズルさと嘘臭さと計算高さ。実は正義モンスターを作ったのは、そうした友人達ではなかったか。

 範子に追い詰められた友人たちは、全員で突発的にとはいえ、範子を殺そうとする。山中で首を締められ、息を吹き返した範子の痛切な言葉「私たち、家族じゃないの?」は、もはや嘘と裏切りの被害者のような悲哀すら感じさせるのだ。

 私たち視聴者の多くは、「正義」の恐ろしさをある程度知っているだろう。だが、ときには正論で、良かれと思って、誰かを傷つけていることもあるかもしれない。さらに、「正しい人」を内心面倒くさがりつつも、適度に良い顔をしたり、受け流したり、その場だけの約束をしたり、ときには利用したりしていないだろうか。

 途中からは、範子の被害者だったはずの友人たちが、醜く見えてきて、その一方で範子が可哀想に見えてくる。

 そして、友人達の手にかけられ、行方不明になった範子の代わりに登場したのが、範子の成長した娘・律子。範子の高校生時代と同じく、白石が演じている。見た目は当然ながらそっくりだが、「正義」の質がちょっと、いや、だいぶ異なる。

 範子の場合は、感情が欠落し、自分の行動規範として、道しるべとして「正義」を盲信していた。しかし、律子の正義はもっと暴力的で、ただ力を振るうこと、罰することに快楽を見出しているように見えるのだ。さらに最終回では、死んだと思われていた範子が再登場。異なる「正義」が対峙することになるだろう。

 様々な「正義」と、それを取り巻く人たちを見るうち、次第に怖いもの見たさの薄ら笑いが消えていった。これは実は対岸の火事じゃなく、私たち自身の物語かもしれない。

■田幸和歌子
出版社、広告制作会社を経てフリーランスのライターに。主な著書に『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)などがある。

■放送情報
『絶対正義』
東海テレビ・フジテレビ系にて、毎週土曜23:40〜24:35放送
※第3話は2月16日(土)23:50〜放送
出演:山口紗弥加、美村里江、片瀬那奈、桜井ユキ、田中みな実、白石聖、桜田ひより、小野莉奈、小向なる、飯田祐真、忍成修吾、神尾佑、水橋研二、厚切りジェイソン
企画:横田誠(東海テレビ)
原作:秋吉理香子「絶対正義」(幻冬舎文庫)
脚本:仁志光佑、谷岡由紀、政池洋佑
音楽:木村秀彬、佐藤浩一
主題歌:嘘とカメレオン「ルイユの螺旋」(キングレコード)
チーフプロデューサー:市野直親(東海テレビ)
プロデューサー:浅野澄美、郷田悠(FCC)
演出:西浦正記、浅見真史
制作著作:フジクリエイティブコーポレーション
制作:東海テレビ放送
(c)東海テレビ
公式サイト:http://tokai-tv.com/zettaiseigi/

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる