『のび太の月面探査記』は「映画ドラえもん」の集大成 “SFのロマン”を探求する物語に

『映画ドラえもん』最新作の“ロマン”とは

 閑話休題、今回の映画の中では月面探査機が謎の映像をとらえて消息を絶ち、のび太のクラスではその話題で一色となるシーンから始まる。そして原案エピソードのように月の裏側に王国を作るのび太とドラえもん。瞬く間にその王国が発展して行く様や、最初に作ったいびつな怪獣が暴れ出すというくだりは原案に忠実に描写されていく。そういった中に、大長編としてのエッセンスとしてルカという謎の少年が登場。彼が“エスパル”という故郷を追われた、超能力を持つ子どもたちばかりの種族で、ディアボロ率いるカグヤ星の一味から狙わ
れているという展開の拡がり方も、いかにも大長編らしい要素と言える。

 のび太たちが何もないはずの場所に新たな世界を作り上げるが、そこにはすでに先住者と呼べる存在がいた、という流れは『竜の騎士』や『雲の王国』に通じる。また、敵キャラクターとなるディアボロの正体についても(詳しくは言えないが)初期大長編の中でも指折りの名作といわれる作品と共通しているのだ。そんな一見するとこれまでの“焼き直し”のようにも思えてしまう中で、ドラえもんのひみつ道具の効果を180度覆す道具が作り出されるという極めて珍しいくだりがあった点は見逃せない。

 また、前述したような“異説”と“定説”の従来の関係性を打破するようなクライマックス。もちろん物語上必要な手段であり、それがのび太たちの暮らす現実的世界へも波及していく点では変わらないのだが、どことなく「ファンタジー」というジャンルのあり方が“すこしふしぎ”から変化しているようにも思える。いずれにしても今回の『月面探査記』という物語は、純粋に「映画ドラえもん」の集大成という位置付けと考えて間違いはないだろう。来年は節目となる40作目。そこからまた、新たな一歩を始めようという気概なのかもしれない。

■久保田和馬
映画ライター。1989年生まれ。現在、監督業準備中。好きな映画監督は、アラン・レネ、アンドレ・カイヤット、ジャン=ガブリエル・アルビコッコ、ルイス・ブニュエル、ロベール・ブレッソンなど。Twitter

■公開情報
『映画ドラえもん のび太の月面探査記』
現在公開中
原作:藤子・F・不二雄
監督:八鍬新之介
脚本:辻村深月
主題歌:平井大「THE GIFT」
キャスト:水田わさび、大原めぐみ、かかずゆみ、木村、関智一、皆川純子、広瀬アリス、中岡創一(ロッチ)、高橋茂雄(サバンナ)、柳楽優弥、吉田鋼太郎
(c) 藤子プロ・小学館・テレビ朝日・シンエイ・ADK 2019
公式サイト:https://doraeiga.com/2019/

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