ジュリア・ロバーツ、近藤麻理恵、ジェイソン・モモアも アカデミー賞に“ピンク旋風”巻き起こる?

 第91回アカデミー賞のレッド・カーペットは、きらびやかでグラマーな「オールド・ハリウッド」だった。華やかなクラシカルとも言えるその舞台は直接的な社会的ステートメントは少なく終わったが、だからこそ「今現在」の空気が浮かんでくるかもしれない。たとえば、多くの有力メディアが選んだベスト・ドレッサーは『クレイジー・リッチ!』のジェンマ・チャンやNetflixドキュメンタリーが好評な近藤麻理恵。「アメリカのショービズで活躍は不可能」と言われてきたアジア系のスターが自然と選出されている。

 ウィメンズのトレンドとしてはとにかくピンク、ピンク、ピンクだ。チャンと近藤のみならず『ビール・ストリートの恋人たち』の新星キキ・レインから女王ヘレン・ミレンまで、多くのスターがこの色を着用した。特に目立ったのは、グラミー賞で一躍ときの人となったケイシー・マスグレイヴスのようなフレアなレース、そしてショーの閉幕を務めたジュリア・ロバーツが示したショッキング・ピンクだ。「伝統的な女らしさ」の象徴とされてきたピンク色だが、今回スターたちが魅せたのはその再解釈、ポスト#MeToo時代にふさわしい「パワフル・ピンク」と言える。ジャネール・モネイの楽曲「Pynk」やドラマ『キリング・イヴ』がトレンドセッターとされるが、一方、ドナルド・トランプ大統領への嫌味な拍手が記憶に新しいナンシー・ペロシ議員を立役者とする声も。

 故カール・ラガーフェルドによるFENDIをまとってピンク旋風に参戦したジェイソン・モモアが示すように、男性陣にも新しい風が吹いた。その象徴は、SNSを駆けめぐったビリー・ポーターのタキシード・ドレスだろう。このエレガンスでクラシカルなガウンは、2018年に逝去したマイノリティ人種LGBTQのレジェンド、ヘクター・エクストラバガンザにオマージュを捧げている。「男らしさ」を問うポーターによるポリティカル・アートは、第91回アカデミー賞最大のステートメントであると同時に、今後のドレスコードを書き換える可能性がある。また『オーシャンズ8』のオークワフィナや『エイス・グレード』で高評価を博した14歳のエルシー・フィッシャーなど、パンツ・スタイルを採用する若手女優も多く見られた。厳格で保守的とされてきたアカデミー賞だが、2019年、女性はパンツを履き、男性はスカートを誇った。

 『ブラックパンサー』陣が牽引するドレッシーなメンズ・スタイルも見逃せない。ケンドリック・ラマーの不在は残念だったが、チャドウィック・ボーズマンのGivenchyはまるで「All the Stars」な輝きを放った。『グリーン・ブック』で見事助演男優賞を獲得したマハーシャラ・アリの、自身のイスラム・ルーツも感じさせる高貴でヒップな帽子、『ブラック・クランズマン』で念願のオスカー像を手にしたスパイク・リーのプリンス・スーツ(およびギャングスタ靴下)……彼らを見ていけば「男優のカーペットはつまらない」神話の崩壊は目前に感じられるはずだ。こうした進化はブラック・カルチャーの進攻なしにしては語れない。かさねがさね、リー監督、衣装デザイン賞に輝いたルース・E・カーター、そして作品賞プロデューサーとなったオクタヴィア・スペンサーらの功績に敬意を。

 アジア系の進出、再解釈されたパワフル・ピンク、ジェンダー規範の破壊、ドレッシーでブラックなメンズ……「政治色の少ないクラシカルなカーペット」とされた第91回アカデミー賞だが、その分ドレッサーたち自体が「新しいハリウッド」を体現したと言えよう。

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