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映画史の新たなフェーズへ 『大人のためのグリム童話 』配給担当が語る、アニメーションの必然性

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脚本なしで「即興」で作られたアニメーション

ーーローデンバック監督は、来日時に片渕須直監督と対談されていますね。その時にアニメーション映画の作り方を更新したいとおっしゃっていました。

土居:はい。彼は長編アニメーション映画の文法を一新するということにすごく意識的なんです。彼によれば、実写映画では(ジャン=リュック・)ゴダールのような人たちが何度も映画の文法に革命を起こしているのに、アニメーションでは未だにディズニーの文法が保たれ続けているのはおかしい、と。アニメーションの文法を更新する試みは、これまでは短編アニメーションの専売特許でした。でも、その実験の場が、ここ10年くらいは長編に移ってきた感があります。ローデンバックは、その流れが始まったのは湯浅政明監督の『マインド・ゲーム』からだと言っていました。『マインド・ゲーム』はとりわけフランスで伝説的な作品として受け止められていて、フランスでいまだに2Dアニメーションが強い伝統を保持しているのはあの映画のおかげだ、と言う人もいるくらいです。

ーーそういう流れの中にローデンバック監督の登場もあったわけですね。ところで、ローデンバック監督はこの作品を作る上で脚本を書いたのでしょうか?

土居:脚本は用意していないようでした。この作品は本来、もっと大きな予算で、もっとキラキラとしたファンタジーとして作ろうとしていたんですけど、予算が集まらずに制作が頓挫したんです。その頃に作られたパイロットフィルムの一部は、今回のパッケージの特典のインタビューのなかに収録されています。妖精が出てきてピラピラ~っとやったら橋が出てくるみたいな、本当に全然違った作風と世界観で(笑)。監督自身はその後もずっと、この物語をいかにして世に出すのかというのをずっと考えていたので、脚本なしでも作れたんだと思います。作画の作業をしながら展開を考えていたシーンもあったくらいです。

ーー脚本なしで描き始めるというのは、脚本を作り、段取りをしっかりやって撮影するスタジオ映画に対して、カメラを持って街に繰り出していったヌーヴェルヴァーグのようですね。

土居:そうですね。こんなに即興性に満ちた長編アニメーションは僕も観たことがなかったです。映像特典に、昨年3月に監督が来日した時のサイン会でドローイングを描いている映像を収録しているんですが、これがまた面白いんです。1人ずつ全員に、全部違う絵を描いていました。まず、スッと線を引くんです。最初のうちはそれらの線が何を意味するのか全然わからないんですが、線がいくつもいくつも重なっていくと、ある瞬間、主人公の少女がいる景色が突如として生成してくる。すごくマジカルな体験です。本人に聞いてみたら、最初に明確なゴールを決めず、やはり、描きながら考えているって言うんですよ。それは今回の映画を実際に作っていたときの彼の感覚と非常に近いと思います。

多様化する世界のアニメーション

ーー少し話を広げて、世界のアニメーションの今についてお伺いします。土居さんには2年前にも『父を探して』の時にお話を聞かせていただきましたが、この2年で世界のアニメーション市場はどう変化していますか?

土居:単純に、世界中の長編アニメーションの水準がどんどん高くなってきていますね。

ーー今年日本で観られる作品で、それが実感できる作品はありますか?

土居:ひとつは、『キリクと魔女』のミッシェル・オスロ監督の最新作『ディリリとパリの時間旅行』ですね。今日の話に絡めれば、オスロ監督も長編アニメーションの美意識を変えようとしてきた人です。アニメーションに限らず巨匠の作品は老年になると良い意味でも悪い意味でもアバンギャルドになりがちだと思いますけど、本作はそれが良い方に転んでいて、僕としては、オスロ作品のなかでも一番良いのではないかと思っています。ベル・エポック時代のパリが舞台なんですが、背景はオスロがパリで撮影した写真をコラージュして作っている。このコラージュが実に不思議な質感を作品全体に与えていて、3Dのキャラクターたちの動きもとても魔術的です。ニューカレドニアから来たカナックの女の子ディリリがパリで巻き起こる騒動を解決していく話なんですが、華麗なアニメーションのなかに、人種差別や女性蔑視の問題なども描いていて、とても野心的です。あと、レイモンド・ブリッグズ原作の『エセルとアーネスト ふたりの物語』も面白いです。これはブリッグズが自身の両親の人生について語った話です。ブリッグズの両親は『風が吹くとき』の主人公夫妻のモデルにもなっているので、アニメーション・ファンは親しみを感じると思います。絵柄もブリッグズの絵柄に忠実ですし、単純に、非常にユニークな人たちの物語として面白い。でも、その愛らしさにコーティングされて、とても生々しくてビターなところもある。先ほども話題に出た、「アニメーションがドキュメンタリー性を帯びる」「生の儚さ・煌きを描く」という話とも共鳴するところがある。老いや死について、考えさせられます。

ーーかつては子ども向けと思われていたアニメーションで老いを積極に描いているんですね。

土居:そうですね。日本での公開の予定はないようですが、ジャン=フランソワ・ラギオニという巨匠の切り紙アニメ作家も、2年前に『岸辺のルイーズ』という長編作品を作っています。これも死を目の前にした老いた女性が主人公で、わびさびを感じさせます。

ーーディズニーなどの3DCGアニメーションは一義的には子どものためのものですが、世界のアニメーション全体では多様化が進んでいるんですね。

土居:そうですね。本当に幅広く全年齢対応になってきて、成熟してきていると感じます。だから、実写映画ファンも観てくれるようになったという点もあるかなと思いますし、アニメーションを作ってきた人たちが年を重ねたことで、描く題材が広がってきたというところもあると思います。ちなみに、ゴダール作品を世界で初めて買い付けた、映画評論家の秦早穂子さんも『手をなくした少女』と『父を探して』を絶賛してくれていて、とても嬉しく思っています。ユニークな映画言語としてのアニメーションの評価が高くなってきているのだなと。

ーーもう、「アニメは映画じゃない」なんて言ってる場合じゃないですね。

土居:おっしゃる通りです(笑)。今日の話のような視点で今のアニメーションに注目してもらえれば、たとえばかつての映画にあった面白さを発見してもらえたりもすると思いますし、映画史の中でアニメーションが特別なものとなるフェーズに入ってきていることも、実感してもらえるのではないかと考えます。

(取材・文=杉本穂高/写真=宮川翔)

 

■リリース情報
『大人のためのグリム童話 手をなくした少女』
2月6日(水)Blu-ray&DVD発売

<Blu-ray>
価格:4,800円+税
ディスク:本編1枚
仕様:本編80分+特典映像

<DVD>
価格:3,800円+税
ディスク:本編1枚
仕様:本編80分+特典映像

【特典映像】(Blu-ray&DVD共通)
・メイキング映像
・日本版予告編2種
・海外版予告編2種(フランス版、アメリカ版)
・筆から絵が生まれるとき セバスチャン・ローデンバック監督ドローイング映像

  【初回限定封入特典】(Blu-ray&DVD共通)
・セバスチャン・ローデンバック監督日本版用ビジュアル描き下ろしポストカード

※ジャケット及び仕様・特典等は予告なく変更になる場合がございます。あらかじめご了承下さい。

監督・脚本・編集:セバスチャン・ローデンバック
キャスト:アナイス・ドゥムースティエ、ジェレミー・エルカイム
提供:ニューディアー
発売・販売:バップ
2016年/フランス/原題:La jeune fille sans mains/字幕協力:東京アニメアワードフェスティバル
(c)Les Films Sauvages – 2016
公式サイト:http://newdeer.net/girl/
公式Twitter:@ND_distribution

      

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