『父を探して』と『君の名は。』の共通点とは? 配給会社代表が語る、インディペンデントアニメの世界的潮流

『父を探して』配給会社代表インタビュー

 第88回アカデミー賞で長編アニメーション部門にノミネートされた、『父を探して』のBlu-ray&DVDが本日1月11日にリリースされた。出稼ぎに出た父親を探すため、少年が広大な世界を旅する模様を追った本作は、全編ほぼセリフなしでストーリーが進行しながら、社会問題、政治問題、環境問題、経済問題などのテーマも描かれる、ブラジル出身のアレ・アブレウ監督の長編第2作だ。リアルサウンド映画部では、本作のリリースを記念して、日本で本作を買い付けて配給を行なったニューディアーの代表で、新千歳空港国際アニメーション映画祭のフェスティバル・ディレクターとして世界の最新のアニメーションの動向を紹介し、アニメーション研究者・評論家としても初の単著『個人的なハーモニー ノルシュテインと現代アニメーション論』(フィルムアート社)を出版したばかりの土居伸彰氏にインタビュー。作品を買い付けることを決めた理由や作品の魅力から、2016年のナンバーワンヒットとなった新海誠監督の『君の名は。』と本作の意外な共通点などについて、じっくりと語ってもらった。(編集部)

『父を探して』のために会社を設立

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土居伸彰氏

ーー今回、『父を探して』のどのような点に惹かれて買い付けを決めたのでしょうか?

土居伸彰(以下土居):『父を探して』は、アヌシーやオタワなど世界を代表するアニメーション映画祭で主要賞を受賞していて、映画祭界隈ですごく話題になっている作品でした。僕はオタワの映画祭で初めて観たのですが、その時にハッとポスターと目が合った気がしたんです。主人公の少年が線路の上に立ってこっちをじっと見ているイラストだったんですけど、その少年と目が合って、「なんだこれは?」と。他の長編と違って、非常に今っぽいなと感じたんです。

ーーポスターを見て決めたということですか?

土居:もちろんその後作品を見ましたよ(笑)。実は一度目の鑑賞時はあまりピンと来なかったんです。割と定番のテーマだなと思って。生きるのが大変な世界で少年がサバイブしていく話ですが、例えば昔でいうと『やぶにらみの暴君』(王と鳥)や『ファンタスティック・プラネット』のように、悪の帝国に支配される世界を縮図として示して、そのなかで主人公がどう生きるかを描くというのは、テーマとして結構よくあるなと。いろいろ観すぎてしまっているせいで起こる誤解だったんですけどね(笑)。その後、いろいろな映画祭で観ていくうちに、「あ、これ全然違うな」と気づいたんです。何が違うかといえば、かつてのそういう作品であれば、主人公の活躍などによって世界の図式が変わっていき、それが物語のカタルシスになる。でも、この作品はそういう意味でのカタルシスが全くないんですよね。世界はまったく変わらない。そこに、ある種のドキュメンタリー性を感じたんです。世界が複雑化していって、野垂れ死んでしまったり、苦しんだりしてる人が存在し続けるという現実をきっちり捉えようとしているなと。非常に勇気のある作品だなと思ったんです。絵柄はすごく可愛らしい作品なんだけど、描こうとしているスケールの大きさや鋭さというものにすごく心を打たれて、それから先は毎回観るたびに号泣してしまい(笑)。これは絶対にやりたいなと思いました。

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(c)Filme de Papel

ーーこの作品はニューディアー設立後、初めての配給作品ですが、作品と会社の設立には関係があるんでしょうか?

土居:実はこの作品を本格的に配給するために会社を立ち上げたようなものなんです。僕はもともとインディペンデントの短編アニメーションの研究をずっとやっていて、そのかたわらで仲間の短編作家と一緒にCALFというレーベルを作って上映会をやったり、DVDを作って出したりなどの活動もしていたんです。インディペンデント作品は、日本ではなかなか観る機会がありませんから、きちんと観れるようにしたいなと思って。研究者としては博士論文を仕上げることができて一段落ついて、じゃあどうしようかという時に、この作品と出会ったんです。話題になっているわりに日本での配給は手付かずで、結構お得な値段で買えそうだというのもあって(笑)、じゃあ会社を作ってやってしまえ、と。

ーーこれまで日本でブラジルのアニメーションを観る機会はほとんどなかったと思いますが、観客の反応はいかがでしたか?

土居:アニメーションファンのほか、ブラジル音楽のファンがたくさん来てくれました。劇中で音楽を演奏している世界的パーカッショニストのナナ・ヴァスコンセロスが2016年の3月に亡くなってしまったので、図らずも、彼の遺作のようなものにもなっているんです。映像特典のメイキングを見るとよくわかるのですが、全編に渡ってヴァスコンセロスの声とパーカッションがたくさん入っていますからね。エンディングのヒップホップでノリノリのブラジル音楽ファンの方々もたくさんいらっしゃいました(笑)。このエンディング曲は、ブラジルの若手ラッパーの代表格であるエミシーダによるオリジナルですが、彼はスラム街出身で、作品の内容にすごく共感できたらしく、物語の内容をふまえたリリックになっています。一方で、絵柄から入った人やインディペンデントアニメーションファンの方の中には、結構ビックリされる方が多かった印象です。

ーーどのような点でビックリされるんでしょうか?

土居:絵柄でかわいいものを想像していたのに、現実のスケール感や手ざわりが強く迫ってくる作品なので、そういう点に圧倒されたのではないでしょうか。終盤の展開も衝撃的ですし。なのでエンディングになると、劇場では、打ちのめされている人と超ノッてる人がいるという不思議な光景が広がっていました(笑)。

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