“2本立て上映”の成否を分けるものは? 名画座・早稲田松竹番組担当が語るコンセプトの作り方
東京・高田馬場にある名画座・早稲田松竹。ロードショーの終了した映画や、過去の名作からセレクトされた週替りに変わる「2本立て」の上映を観ることができる劇場だ。「いま観たい」と思える作品が魅力的な組み合わせで上映されており、幅広い世代の映画ファンに愛されている。リアルサウンド映画部では、早稲田松竹の上映作品を選定している番組担当の上田真之氏にインタビューを行った。どんな考え方でプログラムを作っているのか、映画の面白さとは何か、その仕事の魅力を聞いた。
“いま観たい”と思える感情を大事に
−−早稲田松竹は2本立てのプログラムがいつも魅力的です。
上田真之(以下、上田):2010年から番組編成を担当させていただいています。お客さんに面白いと言ってもらえるプログラムには、しっかりとしたコンセプトが必ずあります。番組編成は僕のほかにもう1名おりまして、副支配人と合わせて3人で話し合いながら作品を選定しています。上映できるものを組み合わせただけ、ということにならないよう心がけています。
−−確かに2010年頃からより2本立てのカラーがはっきりと付いたものになった印象でした。
上田:番組編成担当になる前に、早稲田松竹HPのプログラム紹介文を書かせてもらっていました。その際にプログラムの2本に自分なりのコンセプトを見つけないとうまく書けなかったんです。でも、そのコンセプトを考えるのが好きでした。選ばれた2作品にどんな共通性を見出すか、いかにお客さんに見に来てもらえるように、ひとつの紹介文にまとめるか。ある意味“こじつけ”なんですけど、単独の作品では分からなかった魅力が2本立てにすると生まれることがあるんです。それを考えるのはとても楽しい時間だったので、番組編成を務めさせていただいてからは、プログラムが以前よりコンセプチュアルになっているかもしれません。お客さんの動員数をみても、人気の監督・役者などで縛った2本立てなどは別として、コンセプトがしっかりしている企画の方が、喜んで来ていただいている手応えはありますね。
−−実際に2本に絞るまでにどんな経緯があるのですか。
上田:2本に絞るまでにはたくさんのパターンがあります。例えば目玉になるような新作を見つけて、それに合う映画で一番早くできるタイミングから一番遅くなる作品のタイミングまで、すべてのパターンを考えます。目当ての作品が先にあって、それに何をあてるか、と考えるパターンが多いですね。一方で、候補の作品を一覧で並べて、これとこれがいいなとパッと思いつくときもあります。こだわりにこだわって作品を探した前者よりも、不思議といいプログラムになるのは後者だったりもするんです。考えれば考えるほど、どうしても分かりづらいものになってしまうケースがあるので。
−−作品と作品を組み合わせ、そこに切り口を見つける。一連の流れは編集者の仕事と似ていますね。旧作から新作まで候補の作品は多数になりますが、すべてご覧になっているんですか。
上田:副支配人と番組編成の2人、全員が観ていないということはないようにしています。自分だけが完璧に観ている状況ではまったくないです。もちろん、観て決めたいと思っているんですが、観た上で決めた組み合わせよりも、チラシなどの情報をもとに組み合わせた2本の方がよかったりする場合もあるんです。おそらく、作品を観た上で2本立てのテーマを作成すると、その内容に寄りすぎてしまうケースがあるんですね。それだと、映画をこれから観るお客さんにとっては、あまりにもコアなものになってしまったりする。その意味で、外側からの情報だけで分かるテーマ作りも大事にしています。
−−会心の2本立てプログラムは?
上田:その質問をされると思って色々考えていたんですけど、中々これ!というものは決められなくて。自分にとって、きっかけになったプログラムとしては2010年に中島哲也監督『告白』と塩田明彦監督『害虫』の組み合わせでしょうか。内容としてすごく合っているわけではないと思うんですが、ものすごくたくさんのお客さんが来てくれました。「こういうことをやっても大丈夫なんだ」と思えたプログラムだったんですね。とはいえ、少しずつ色んな考え方を試してきて、未だに試行錯誤を続けている途中です。大枠としては、①テーマで合わせる②出演者で合わせる③監督同士で合わせる、の3つになるでしょうか。③の例としては、過去にマーティン・スコセッシ『シャッターアイランド』とウディ・アレン『ウディ・アレンの 夢と犯罪夢と犯罪』を組み合わせるプログラムを行いました。作品同士のカラーが合っていると思ったわけではないのですが、同時代に監督デビューしてここまでキャリアを積み重ねている2人、というかなり大きな枠組みで合わせてみました。お客さんにとっては、テーマありきというよりも、こういったボリューム感で観たいとなってくれるケースも多々あるので。映画のジャンルだけではなく、舞台となった国だけで選んだり、画面の質感で組み合わせたりすることもあります。
−−1月28日からの「イーストウッドとスコリモフスキ」のプログラムもそうですね。
上田:そうなんです。大ベテラン監督ふたりのスマートかつ洗練された映画ということで組み合わせてみました。あとはチラシのビジュアルだけで2本を考えるケースもありますね。でも、それは意外と合理的なんです。もともとターゲットを絞って制作されたチラシなわけですから、そのビジュアル雰囲気がマッチするということは、自ずとチラシが想定していたターゲットにも響くということですよね。実はこの映画のメインビジュアル同士が合うかというのはすごく重要な要素なんです。2作品のチラシを並べてみたときに、グッとくるかどうか、その部分は大事にしています。
−−言語化はできない感覚も大事にしていると。
上田:「この2作品に共通するテーマは~」というのは後からでもある程度見出すことはできるんです。むしろ、最初からテーマをはっきりと打ち出して、「この映画は“家族”を描いているから家族の映画をもう一本選ぶ!」など、そういった考え方はしていないですね。例えば12月のプログラム『帰ってきたヒトラー』と『トランボ ハリウッドに嫌われた男』の組み合わせに、「?」が付く人も多いと思うんです。
−−ヒトラーを題材にした映画は多数あるわけで、それで組み合わせることもできたわけですよね。
上田:この組み合わせに関していうと、いまの時代にこの題材でこういった作品が作られる背景に興味があったんです。『帰ってきたヒトラー』は、ドイツにおける難民問題、ドイツ国民のナショナリズム的な感情など、明らかに現代に通ずる問題を扱っています。『トランボ』は、マッカーシズムが主題としてあり、皆がわけもわからず共産主義を悪とみなしていた背景が描かれています。そういった時代の雰囲気を取り扱っている映画として、共通するものがあると思いましたし、私たちが直面している現実が、2作品から見出だせるのかもしれないと。現代社会と如何につながっているか、“いま観たい”と思える感情は大事にしています。