『家売るオンナの逆襲』三軒家万智は“時代遅れ”なのか? 松田翔太ら新キャストにみる新たな構造

新キャストから読み解く『家売るオンナ』の魅力

 フリーランスで、優しく穏やかな性格、胸元の黒の名刺入れの奥に秘めたピンク色から垣間見せるどこか女性的なムード、そして、フェンシングで鍛えたしなやかな身のこなし。そんな留守堂のキャラクターを全て裏返しにすると、我らが三軒家万智のキャラクターになる。つまりは、会社員、白洲が言うところの「あんな横暴な野獣、時代錯誤なロボット人間」たる厳しさと破天荒さ、常に男たちを凌ぎ、従える強さを持つ男勝りなムード、そしてロボットのようにデフォルメされた立ち居振る舞いだ。

 いかにも当世風の“ニューヒーロー”にも見える留守堂の登場、さらには若者代表2人組の存在によって浮き彫りになってくるのは、三軒家万智のキャラクターとしての“古さ”だ。三軒家万智は決して時代のニューヒロインとは言えない。昨今、デフォルメされた虚像、男性社会の中で戦うために身につけた強固な鎧を当然のように纏ったヒロインが正当化される時代は主流ではなくなりつつあり、世間はより、野木亜紀子脚本のドラマに代表されるように、リアリティに満ちた、等身大のヒロインを求めるようになった。

 だが、果たして本当にそうだろうか。彼女は逆に「時代遅れ」であることが魅力なのではないか。第1シーズンの最終回において布施が「昔のがむしゃらな働き方を今の世の中はバカにするし否定するけど、古き良き時代をバリバリ肯定してくれるサンチーは尊い」と言っていたように。

 三軒家万智の魅力は、新しいことでも古いことでもなく、時代の流れに左右されないところにある。パワハラを恐れず新人を一切甘やかさず、「一億総活躍なんて言われて外で働いて自立することだけが価値ある生き方じゃない、あなたの天職はプロフェッショナル専業主婦」とその人の本質を見極めれば批判を恐れず「時流」とされることも平気で否定する一方で、YouTuberになってみたり、最近話題の、夫婦が別々のお墓に入ることを取り入れてみたりする。

 彼女は、平成の終わりという一つの区切りが差し迫り、古いものを忘れ去り、何事も新しいものが正義になる昨今において、古い考え方も新しい考え方も使えるもの全てを駆使し、誰かにとっての最適な道を呈示しようとする人物なのである。それが、一周回って新しく、一周回って正しいのだ。

 一度は会社を離れ(屋代が「僕は会社の犬なんかじゃない、男だ!」と呟いて決意する場面もあった)、社長・万智と、課長・屋代になったにも関わらず、2人は元の会社に戻り元の課長とチーフのポジションに納まっている。一旦は脱サラの道を選びながらも、再び会社員に戻った彼らは、何に「逆襲」しようというのだろうか。彼女の戦いは、始まったばかりである。

■藤原奈緒
1992年生まれ。大分県在住の書店員。「映画芸術」などに寄稿。

■放送情報
『家売るオンナの逆襲』
日本テレビ系にて、毎週水曜22時〜放送
出演:北川景子、松田翔太、工藤阿須加、イモトアヤコ、鈴木裕樹、本多力、草川拓弥、長井短、千葉雄大、臼田あさ美、梶原善、仲村トオル
脚本:大石静
主題歌:斉藤和義「アレ」(スピードスターレコーズ)
音楽:得田真裕
演出:猪股隆一、久保田充
チーフプロデューサー:西憲彦
プロデューサー:小田玲奈、柳内久仁子(AXON)
協力プロデューサー:水野葉子
制作会社:AXON
(c)日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/ieuru_gyakushu/
公式Twitter:@ieuru2016

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