『少女邂逅』『志乃ちゃんは~』『カランコエの花』……拡大する“ガール・ミーツ・ガール”映画

“ガール・ミーツ・ガール”映画の台頭

『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』

 『少女邂逅』の公開からわずか2週間後に上映を開始した湯浅弘章監督作『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』。主人公の大島志乃(南沙良)は人前でうまく言葉が話せないことに悩む少女。映画は高校の入学式からはじまり、自己紹介で「自分の名前が言えない」彼女の姿が、鮮明に映し出される。高校生活の最初から躓いてしまった彼女の転機となるのはやはり、もうひとりの「少女」、岡崎加代(蒔田彩珠)との出会い。志乃と同じくいつもひとりで行動していて、ミュージシャンを目指しているが、音痴なことに悩んでいるという、これもまたある種の“生きづらさ”を背負った女の子だ。

『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』(c)押見修造/太田出版 (c)2017「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」製作委員会

 互いに共感するものがあったのか、仲を深めていく志乃と加代。心を通わせるうちに、志乃は、加代の前でならスラスラと言葉を発することができるようになる。その後、志乃が抜群の美声を持っていることを知り、文化祭での発表を目標にメロディーを加代、歌を志乃が担当する音楽ユニットを組むことに。人前で言葉が話せない志乃と、音痴な加代。彼女たちはひとりでいるとうまく“音を発する”ことができなかったが、2人になることで、徐々に美しい旋律を奏でることができるようになった。

 試行錯誤しながらも文化祭で彼女たちが学校中にその才能を認められる──。微笑ましい前半を見ているとそういった結末を思い浮かべてしまうのだけれど、後半はあることをきっかけにユニットが解散してしまい、文化祭も加代だけでステージに立つことになる。『少女邂逅』と同じく「少女たちの別れ」を描いている本作は、見る人によっては悲劇的なラストだと感じるかもしれない。

 しかし、“志乃ちゃん”は決して人生に絶望していない。それは体育館で「自分の名前を叫ぶ」クライマックスのシーンにしっかりと現れている。文化祭で、少し音を外してもひとりで懸命に「魔法はいらない」というオリジナルソングを歌いあげた加代も含め、彼女たちは「2人でいると」音になった時代を経て、「ひとりでも」音を出せるよう、成長を遂げたのだ。

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