ディーン・フジオカとは一体何者なのか? 『海を駆ける』が映し出す、不条理で魅惑的な世界

『海を駆ける』が映し出す、魅惑的な世界

 さて、本作でこの異物的ポジションを担ったディーンだが、台湾での活動を経て、逆輸入的に日本デビューを果たした彼自身もまた、かねてより得体の知れない存在であった。この2018年は本作だけでなく、『坂道のアポロン』『空飛ぶタイヤ』といった出演映画の公開があり、『モンテ・クリフト伯 -華麗なる復讐-』(フジテレビ系)ではプライムタイムでの連続ドラマ単独初主演も飾っている。まさに順風満帆な俳優人生のように思えるが、モデル、ミュージシャン、映画監督と、その活動は多岐に渡り、何か特定のジャンルや人物像に彼を当てはめることは不可能だ。

 ディーン・フジオカとは一体何者なのか? そんな問いかけは、このラウという人物にも通じる。その表情からは喜怒哀楽が読み取れず、微笑を浮かべているようにも見えるが、同時に、悲しみを湛えているようにも見える。不思議な力を有する彼のことを、貴子が名付けたとおり、「海」の化身や、あるいは「自然」そのものと見ることは可能だ。しかしその力は、特定の感情から発するものではなく、単に気まぐれとしか言いようのない振る舞いで、ときに人を癒やし、ときに傷つける。掴みどころのない存在であり、さらに言えば、捉えきれない存在なのである。

 “捉えきれない”といえば、ここで冒頭のワンシーンをはじめとする、画面いっぱいに広がった海の姿を思い出してみたい。全ての生命を産み出す「海」、全ての命を奪う「海」、彼は「海」から現れたーー本作のキャッチコピーでも強調されているこの「海」は、フレームに収まらない、まさに捉えきれない存在である。つねにその一部しか見ることは叶わず、全体を把握することなど不可能なのだ。そもそも捉えてしまおうとすることなど、私たちの傲慢さでしかないだろう。同じように、一見して無害な男に思えるこのラウの、私たちは何を知っているのか。ときに理不尽な存在ともなる彼(ラウ=海)を捉え、何か求めることなど、それこそ理不尽というものだろう。ラウの気まぐれな態度は、自然の予測不能さと同じである。またそれは、心の内が見えない隣人とも近いものではないだろうか。そこではなにが起きても不思議ではないのである。ラウの存在への肯定は、他者理解への助けともなるだろう。

『海を駆ける』Blu-ray&DVD 特典映像の一部

 静かな映画ではあるが、描かれる世界には終始笑顔が溢れている。だからといって、ユートピアというわけでもない。いかようにも解釈できる不条理で魅惑的な世界は、ひるがえって私たちの過ごす世界と地続きであることを気づかせてくれるだろう。このたび発売となる『海を駆ける』DVD&Blu-rayでは、インドネシアで製作された短編ドキュメンタリー『8月のアチェでアリさんと話す』や、メイキング、インタビュー映像が収録されている。多様な解釈を受け入れる、懐の深い映画である深田作品の世界の成り立ちの、その一端を垣間見ることができるのではないだろうか。本編とはまた違う、インドネシアでの笑顔溢れる国際交流が収められているのだ。そこには、この映画に感じる温かさの理由も隠されているはずである。

■折田侑駿
映画ライター。1990年生まれ。オムニバス長編映画『スクラップスクラッパー』などに役者として出演。最も好きな監督は、増村保造。

『海を駆ける』Blu-rayアスマート限定版

■リリース情報
『海を駆ける』
12月5日(水)Blu-ray&DVD発売、レンタル同時リリース

Blu-ray通常版(BD+DVD 2枚組):5,800円(税別)
DVD通常版(DVD2枚組):4,800円(税別)
Blu-rayアスマート限定版(BD+DVD 2枚組)価格:6,800円(税別)

<特典映像>(約90分予定)
・深田晃司監督短編作品『8月のアチェでアリさんと話す』(企画:ぴあフィルムフェスティバル)
・メイキング&インタビュー
・予告編集
・舞台挨拶(完成披露・東京初日)

<アスマート限定特典映像>(約50分予定)
・TVスポット集(『モンテ・クリスト伯』OA分ほか)
・海外特派員クラブ記者会見
・2日目舞台挨拶(大阪)

※商品仕様は、予告なく変更する場合あり。
※全法人共通・初回購入特典 『海を駆ける』マグネット

監督・脚本・編集:深田晃司
撮影:芦澤明子
照明:永田英則                           
音楽:小野川浩幸
キャスト:ディーン・フジオカ、太賀、阿部純子、アディパティ・ドルケン、セカール・サリ、鶴田真由ほか
発売・販売:アミューズソフト
(c)2018“The Man from the Sea”FILM PARTNERS
公式サイト:http://umikake.jp/
DVDサイト:http://www.amuse-s-e.co.jp/title/umikake/

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