立川シネマシティ・遠山武志の“娯楽の設計”第33回
旧作上映に映画館の“意志”が現れる 「午前十時の映画祭」10年間の文化的功績
映画を出す方も面倒くさい、映画館もほとんどの場合大きく集客できるわけでもないのに新作上映より圧倒的に手間がかかる、と単純なビジネス的な視点だけでみたら旧作上映はかなり微妙です(笑)。だからどこもあまり積極的にはやろうとしません。配給会社本体が仕掛ける、続編公開前の前作復習上映のような、通常の仕事の延長でできる場合くらいになってしまいます。
もちろん「名画座」と呼ばれる映画館は違いますよ。関東圏以外ですと残っている劇場数は10本の指で数え切れるほどで、特に若い方は映画ファンでも近隣になく、行ったことがない、名称も知らないという方も多いかと思います。
名画座というのは現在では、基本的には公開後、数ヶ月ほどしてから主にミニシアター系作品と呼ばれるような小規模な作品を上映する劇場を指します。ミニシアター、単館系と呼ばれる劇場と兼ねる劇場もあります。小規模公開作品新作と旧作上映を交互に行っているんですね。
シネコンは原則、新作の公開の場ですから、旧作上映のために新作の上映回数が削られるようなことは配給会社にとって許容しかねることです。当然ですよね。よって旧作上映はぐんとハードルがあがります。名画座はその点、全国一斉公開などのスケジュールに縛られることがありませんから、融通が利きます。配給会社もシネコンには出さないけど、ミニシアター、名画座には出すということもあります。
新作を毎週毎週上映していくシネコンは、集客は配給会社頼り、配給会社まかせで、受動的にならざるを得ません。映画を宣伝して売るのは配給会社の仕事で、映画館は場所を貸すだけです。でもそうじゃない、という思いが首をもたげてきます。
映画館もまた、映画を売るべきじゃないか。僕らはなんのために映画館スタッフという職業を選択したのか。自分が味わった映画からもらったこの気持ちを、できるだけたくさんの人にも可能な限り最善の状態で味わってもらいたい強い思いから、この仕事を選んだのではなかったか。
全国統一で同時にやらなければならない新作の売り方とは違って、旧作上映なら、上映のタイミング、宣伝の方法に映画館にも多少の自由が与えられます。
例えばG.W.や夏や冬の繁忙期あとの、そのまま何もしなければ大きなヒットが望めそうな作品もなく赤字になってしまうだろう月に、独自企画の上映を積極的に仕掛ける。新作上映前や途中に、関連旧作を上映して盛り上げる。
言ってみればまったく商売の基本中の基本で、こんなこと他のビジネスだったらむしろ当たり前にやらなければならないことのように思えるかもしれませんが、映画館はなかなか出来ていないことが多いのです。出来てないというか、そう簡単に実現できない、というほうが正確ですかね。やりたい気持ちはあっても。
実現している、それぞれの劇場の旧作上映は、つまりかなりの手間とリスクを引き受けて行われているのです。
特にここ数年内に公開されたもので、まだ上映権が生きているようなものではない、公開から5年7年以上経っているにも関わらず、その劇場でだけ、あるいは全国でも数えるほどの劇場でだけ上映されるような旧作上映は、劇場も配給会社も、開催の理由の半分以上は“熱情”と言ってもいいと思います。これは名画座においても同様です。