2018年、日本映画はニューフェーズへ(後編) 『カメ止め』は夢の映画か、脱・映画か
『カメ止め』が見せた下克上の論理
映画と社会の関わり、ということを考察するなら、ここで1本の話題作に触れないわけにはいかない。2018年の日本映画をめぐる最大のトピックとしては、カンヌ映画祭パルムドールに輝いた是枝の『万引き家族』と並んで、圧倒的大多数の人が上田慎一郎(1984年生まれ)の『カメラを止めるな!』を挙げるはずである。(参考:2018年、日本映画はニューフェーズへ(中編)『寝ても覚めても』『きみの鳥はうたえる』の9月)
まさに映画の枠を超え、社会現象的なヒット商品としても今年有数のビッグタイトルとなった本作のハネ具合――異例どころか前代未聞の興行的成功についてはもはや説明するまでもないだろう。監督・俳優の養成スクールであるENBUゼミナール製作・配給の、ワークショップを基盤とした完全な自主映画でありながら、都内2館からSNSによる口コミと、「口コミで話題」と報じるメディアが連鎖して全国のシネコンへと拡大公開。本稿執筆時(2018年10月)の時点で興収20億円を突破している(製作費は公称約300万円)。
このハリウッド的、もしくはアメリカン・ドリーム的な驚異の現象面だけ取ってみれば「ついに出た!」と大喜びするところだ。というのも筆者は『SR サイタマノラッパー』公式本(角川メディアハウス刊)に寄せた論考などで「メジャーとインディーズの液状化」が現代の日本映画シーンに敷かれるようになった土俵とし、新自由主義化した競争社会のハードさをポジティヴに捉えるならば、どんな低予算の自主映画でも出来が良ければ同じスクリーンで上映されるし、ハリウッドや国内大手メジャーとも闘える。もしかすると勝てるかもしれない、という下剋上の論理を説いたからだ。
それは松江哲明の『童貞。をプロデュース』が最初の回路を開き、入江悠の『SR サイタマノラッパー』シリーズの健闘――特にティ・ジョイが配給に付いたことで最初からシネコン映画として世に出た『SR サイタマノラッパー2~女子ラッパー☆傷だらけのライム~』(2010年)が果敢な歩みを見せたゆえの可能性なのだが、同時に満足な結果にまでは届かず、惜しくも果たせなかった悲願の夢でもあった。