伝統の復権と世界市場への挑戦 『紅き大魚の伝説』『ネクスト ロボ』に見る、中国アニメの隆盛

 『紅き大魚の伝説』が伝統的な中国アニメーションの復権を象徴するなら、『ネクスト ロボ』はグローバル市場で中国アニメーションが戦えることを示した作品と言える。

 『ネクスト ロボ』は、中国の『暴走漫画』シリーズというギャグ漫画を基にしている。製作会社はウェブで漫画と動画配信を展開している暴走(Baozou)スタジオで、アニメーション制作をカナダのタンジェント・アニメーションが担当している。プロデュース・脚本は中国主導で、監督、ストーリーボードやアートディレクター、CG、VFXなどのアニメーションスタッフ全般はカナダの人材である。この座組みは、日本スタジオと組んで日本の制作ノウハウを学ぶのと同じ発想と言えるかもしれない。

 Netflixが、本作の世界配信権を33億円の大金で取得したことで話題となり、9月から日本でも配信されている。諸事情により、中国での劇場公開は遅れているようだが、まもなく公開される予定だ。

 本作はフル3DCG作品だが、世界のアニメーション映画の市場は日本的な手描き2Dアニメよりもこちらの方がシェアは大きい。ディズニーやイルミネーションなどのアメリカ勢の作品が市場を席巻しているが、本作のクオリティはそれらの作品に勝るとも劣らない完成度だ。主人公が悪ガキで、ディズニーでは躊躇するような描写にも踏み込んでいる点も新鮮だ。VFXや背景に日本アニメの影響を感じさせる面もあるが(参照:アニメ!アニメ!|“爆発やミサイルはマクロスをイメージ”「ネクスト ロボ」日本人クリエイターが語る日本アニメの影響)、全体の作風としてはフォトリアル志向で、ディズニーやイルミネーション作品と比べても見劣りしないレベルのビジュアルだ。

 カナダとの共同製作なので、純粋な中国製のアニメーションではないが、『紅き大魚の伝説』よりもさらにグローバル市場を意識して作られた作品なのだろう。主人公こそ、中国系の少女だが、多様な人種が登場し、舞台も『ブレードランナー』や『攻殻機動隊』を彷彿とさせる無国籍感覚にあふれている。

 Netflixが本作に33億円も投じて独占配信権を手にしたのは、近い将来ディズニーが独自の配信プラットフォームを作る可能性が高いことが背景にあるだろう。Netflixは、ディズニーに対抗できるフルCGアニメーションを手にする必要があり、『ネクスト ロボ』がそのひとつになりうると判断したのではないだろうか。

 中国アニメーション産業がその資金力と巨大な国内市場をバネに、この分野にますます投資するようになれば、今後も続々とハイレベルなフル3DCG作品が誕生するだろう。中国のスタジオにしてみれば、自国内では劇場公開を展開し、海外向けにはNetflixに高額で配信権を販売するという戦略を取れるので、両者にとって都合が良い関係とも言える。

 中国アニメの伝統の復権と、世界市場への挑戦、2つの潮流が同時期に中国アニメーション界から起こっている。『紅き大魚の伝説』のリャン・シュエン監督は海外メディアのインタビューで中国アニメーション産業は巨大な成長期の始まりにいると語っている。今回紹介した2本の作品は大変に優れた作品であるが、これは到達点ではないのだ。中国アニメーションが世界を席巻する日は来るだろうか。今後も動向から目が離せない。

■杉本穂高
神奈川県厚木市のミニシアター「アミューあつぎ映画.comシネマ」の元支配人。ブログ:「Film Goes With Net」書いてます。他ハフィントン・ポストなどでも映画評を執筆中。

■配信情報
Netflixオリジナル映画『ネクスト ロボ』
Netflixにて世界190ヵ国で独占配信中
共同監督:ケヴィン・アダムス、ジョー・ケイサンダー
プロデューサー:パッティ・ヒックス、チャーレーン・ケリー
キャスト:シャーリン・イー、ジョン・クラシンスキー、ジェイソン・サダイキス、デヴィッド・クロス、コンスタンス・ウー、マイケル・ペーニャ    
日本語吹替キャスト:山根舞、鈴木達央、藤原啓治、森久保祥太郎、劇団ひとり
Netflix:https://www.netflix.com/

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